図面からの見積もりは自動化できる？見積業務を大幅削減した事例を紹介

製造原価の見積もりの重要性と課題

製造原価の見積もりは、図面から以下の要素などを読み取り、実際の工程でかかる時間（タクトタイム）を試算しながら、各要素のコストを算出する業務です。

• 部品の製造に必要な材料
• 形状・寸法
• 加工方法
• 処理工程

営業部門が顧客からの依頼を受けた際や、原価企画・設計の段階で内製と外注の比較を行う際など、さまざまな場面で発生します。

見積もりは、製品の売価を設定する基準となるため、実際の製造原価と大きくずれると利益を損ないかねません。原価見積もりが過小であれば採算が取れず、過大であれば競争力を失うリスクが生じます。

一方、原価の見積もりが正確であれば、利益を確保し適正価格を提示できます。また、過去のデータと照らし合わせて改善の余地を見つけることも可能です。

ただし、精度の高い見積もりを行うには、加工方法や工作機械の選定に関する知識が求められます。そのため、特定の担当者に依存しやすく、属人化しがちです。対応できる人が少ない状況では、一部のベテラン社員に業務が集中し、ミスのリスクが高まる傾向にあります。また、技術の継承が進んでいない現場では、担当者の退職や異動による影響も大きく受ける可能性があります。

こうした課題を解決するためには、業務の標準化やデジタルツールの活用が重要です。過去のデータを活用しやすい仕組みに整え、経験の浅い担当者でも一定の精度で見積もりができる環境の構築が必要です。

見積もり業務の効率化には見積支援ソフトがおすすめ

見積もり作業の効率化を目的とした「見積ソフト」の導入が進んでいますが、従来型には限界があると言われています。例えば、すべての条件を正確に反映できず、結局は手作業が必要となるケースも少なくありません。こうした課題の解決に有効なのが「見積支援ソフト」です。

従来の自動見積ソフトが抱える問題点

一般的な自動見積ソフトは、CADデータから材料費や加工回数を積算する方式を採用していますが、以下の課題があります。

• 加工の難易度がコストに反映されない：同じサイズでも難易度の差によるコストの違いを考慮できない
• 工場の稼働状況などをリアルタイムに反映できない：工場稼働状況や職人の負荷といった現実的な要素が反映されない
• 見積もりが実態と合わない：結果として現実に即さない見積もりとなり、「自動化」が逆に作業負担を増加させる

見積支援ソフトで実現できる効果

こうした従来の課題を解決するのが「見積支援ソフト」です。過去の実績データを活用し、積算方式ではなく類似案件ベースで価格算出を行うことで、以下のような効果が期待できます。

• 業務効率を向上させられる：手作業で数時間を要していた複雑な見積もり作業を短時間で完了。過去の図面・発注情報参照により瞬時に見積もりを作成できる
• 見積もり精度を高められる：AIと過去データを活用することで、人の感覚や経験に依存していた従来方式のばらつきを解消。実際の取引価格に近い見積もりを作成し、価格設定ミスや機会損失のリスクを削減できる
• 業務を標準化でき、属人化を解消できる：経験の浅いスタッフでも正確な見積もりが可能となり、特定社員への業務集中を防止。加工難易度や工程複雑さも考慮した精度の高い価格設定ができる

見積支援ソフトの導入が適した企業

下記の属性のある企業は見積もり支援ソフトの導入が適しているといえるでしょう。

▼見積支援ソフトの導入が適しているケース

生産方式セグメント	少量多品種
業種	メーカー、加工会社、商社
職種	生産技術、製造
部門	設計調達部門

少量多品種生産を行う企業

見積もり支援ソフトは、特に少量多品種生産を行う業界で高い効果を発揮します。少量多品種生産では、頻繁に異なる図面や見積もり依頼が発生するため、効率的な対応が求められる場面が多いのです。

一方、量産や中量産を行う現場では、加工見積もりが既にある程度自動化されている場合もありますが、カスタマイズ品や特殊仕様品を多く扱う量産現場では、このソフトの導入が十分なメリットをもたらすでしょう。特に、類似部品を素早く検索して再利用できる機能は、大幅な工数削減と精度向上に貢献します。

設計調達部門

見積もり支援ソフトが効果を発揮する主な領域は、設計調達部門です。これらの部署では、加工類似品をすぐに探し出す環境が整っていない場合も多く、特に属人化した業務が課題となりがちです。そうした環境では、見積もり支援ツールを導入することで、効率化がさらに進み、見積もり作業の負担が軽減されます。

図面見積もり業務を効率化した事例

見積もり支援システムを導入した企業では、従来の課題解決に加えて、大幅な業務効率化と組織変革を実現しています。以下では、実際に見積もり業務の効率化を達成した企業の成果をご紹介します。

調達部門の人件費を年間300万円以上削減｜川崎重工業株式会社様

川崎重工業株式会社は、船舶・鉄道車両・バイク・産業プラント・精密機械など多彩な事業を展開する総合エンジニアリングメーカーです。

同社の調達部門では、長年の事業展開により蓄積された膨大な部品データの取り扱いに悩まされていました。過去に購入した類似部品の情報や価格履歴は、各所に散らばったExcelファイルに分散して保存され、必要な情報を見つけ出すだけで相当な時間を要していました。

さらに深刻だったのは、「あの部品は確か3年前に○○円で調達していたはず…」といったベテラン社員の記憶に依存する業務体制でした。若手社員にとって適正価格の判断は困難を極め、類似部品との比較検討すら容易ではありません。結果として、本来であれば短時間で済むはずの調達業務に多大な工数がかかり、コスト妥当性の検証も曖昧になりがちという悪循環に陥っていたのです。

このような調達業務の非効率性を根本から改善するため、同社はCADDi Drawerの導入に踏み切ります。システム導入により、これまで属人的だった部品検索業務が標準化され、経験年数に関係なく誰でも迅速に過去の調達実績を参照できるようになりました。

特に注目すべきは、類似部品の価格比較が瞬時に行えるようになったことで、従来は見逃されがちだった異常な高単価での発注を事前に発見できるようになったことです。これにより1件あたり平均4.4分の業務時間短縮を実現し、年間換算で300万円以上の人件費削減効果を生み出しています。

導入後の主な成果

• 検索時間の大幅短縮：過去の類似品や購入実績を短時間で検索可能
• 業務の標準化：経験に関わらず業務がスムーズに進行
• コスト管理の向上：類似検索による妥当性改善と異常単価の発見
• 人件費削減：1件あたり4.4分の時間短縮により年間300万円以上削減

参考： 川崎重工業株式会社様｜製造業AIデータプラットフォームCADDi

全社データ標準化による非生産的作業の大幅削減｜株式会社SUBARU様

自動車および航空宇宙事業を展開する株式会社SUBARU（1953年設立、連結従業員37,693人、売上高47,029億円）では、図面に関する情報を設計部門に問い合わせても、多忙により返答が1週間後になることが珍しくありませんでした。

同社のコストイノベーション推進部では、過去の資産である図面を活かして非生産的な作業を減らす方法を検討していました。20年ほど設計経験を持つ担当者は、「図面を探す時間は多く、時には成果と結び付くこともあったが、その時間がなければより付加価値を生む仕事ができた」と振り返り、CADDi Drawerの活用イメージがすぐに湧いたといいます。

導入後は、図面の探索および問い合わせにかかっていた時間が全社で1ヶ月あたりおよそ数百時間削減されました。図番が分からなくても部品名で検索できるようになり、問い合わせ不要で自ら図面データを探し出すことが可能になったのです。異なる領域の設計者や新人・経験の浅い設計者でも、品名や素材などのキーワードで瞬時に図面を見つけられるようになりました。

さらに、SUBARUでは「ひとつのSUBARU化」を掲げており、CADDi Drawerを全社で当たり前に使えるツールとして展開することを目指しています。設計や製造部門に加え、子会社や海外の関連会社、サプライヤーも含めたグループ全体での活用により、世界最先端のモノづくりの実現を目指しています。

導入後の主な成果

• 時間削減：全社で月あたり数百時間の非生産的作業を削減
• 人材育成：自ら調べて情報を得るサイクルが学習効果を生み技術力向上
• 情報活用：検討や判断に参考できる情報量が導入前より圧倒的に増加
• 組織変革：古い体制を変革し理想とする生産性の高い仕事の実現

参考： 株式会社SUBARU様｜製造業AIデータプラットフォームCADDi

「図面管理」から「図面活用」への転換を実現｜株式会社荏原製作所様

株式会社荏原製作所は、1920年設立のポンプメーカーです。連結売上高6,032億円、従業員18,372名の大企業で、ポンプ、コンプレッサ、半導体製造装置等の開発・製造・販売を行っています。

創業100年を超える同社には、長年にわたって蓄積された膨大な図面データが存在していました。しかし、これらの貴重な設計資産は「保管されているだけ」の状態で、実際の業務で効果的に活用されているとは言い難い状況でした。

特に課題となっていたのは、サプライヤー選定時の図面検索です。「過去に似たような部品を発注したことがあるはずだが、どこに図面があるのかわからない」「見積もりの妥当性を判断するための参考データが見つからない」といった声が現場から頻繁に上がっていました。加えて、縦割りの組織構造により、他部門で蓄積されたノウハウや事例を共有する仕組みが整っておらず、組織全体としての知見活用が進まない状況が続いていたのです。

転機となったのは、半導体製造装置の受注急増でした。急速な需要拡大に対応するため、同社はまずCADDi Manufacturingを活用してサプライヤー開拓に着手。この取り組みが成功を収めたことから、社内の業務プロセス効率化への関心が高まり、CADDi Drawerの導入へと発展していきました。

導入効果は劇的で、これまで数時間を要していた図面探索作業がわずか数秒で完了するように。浮いた時間は原価企画やサプライヤー開拓といった、より付加価値の高い業務に充てられるようになり、組織の垣根を超えた部署間での情報共有も活発化。意思決定のスピードが格段に向上し、適切なサプライヤー選定と精度の高い見積もり検証が実現しています。

導入後の主な成果

• 検索時間の大幅短縮：数時間かかっていた図面探索業務が数秒に短縮
• 業務の質向上：原価企画やサプライヤー開拓など生産的業務に時間を使えるように
• 組織連携の強化：組織の垣根を超えた各部署のナレッジ共有が実現
• 意思決定の迅速化：適切なサプライヤー選定と見積もり検証が可能に

参考： 株式会社荏原製作所様｜製造業AIデータプラットフォームCADDi

まとめ

製造業における見積もり業務の効率化は、単なるコスト削減だけでなく、競争力の強化にも繋がります。従来の手作業による見積もりから脱却し、過去データを活用した見積もり支援システムの導入により、精度向上と工数削減を同時に実現することが可能です。

従来の自動見積ソフトが持つ限界を認識し、積算方式から実績データ活用型へアプローチを転換することが重要です。CADデータからの単純積算では現実的なコストが見えず、工場稼働状況や加工難易度といった実際の要素が反映されません。しかし、過去の類似案件データを活用する見積支援システムなら、AIによる精度の高い価格算出と瞬時の見積もり作成により、属人化解消と業務標準化を推進できます。

実際、多くの企業が既に年間数百万円の人件費削減と月数百時間の作業時間短縮を達成しています。見積もり支援システムは、従来ソフトの技術的限界を超えるソリューションとして、製造業の生産性向上と持続的成長を支える上で役立ちます。