技術継承とは?課題や解決方法、取り組み事例を紹介
目次
製造業の現場では、ベテラン社員の大量退職を目前に、技術継承が喫緊の課題となっています。しかし、単に「見て覚える」という従来の方法では、限られた時間での効率的な技術伝達は難しく、若手の習得スピードも追いつきません。さらに、ベテラン社員の持つ暗黙知の可視化や、世代間のコミュニケーションギャップなど、複雑な問題が山積しています。
こうした課題に対して、デジタルツールを活用した新しい技術継承の手法が注目を集めています。図面データの一元管理や動画マニュアルの活用などを駆使することで、効率的な技術伝達が可能です。
しかし、単にデジタルツールを導入するだけでは、本質的な課題解決には至りません。この記事では、技術継承の基本的な考え方から、課題、具体的な成功事例を解説します。
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技術継承とは?
技術継承とは、ベテラン社員が長年培ってきた技術やノウハウを若手社員に効果的に伝え、企業の技術力を維持・向上させる取り組みです。
類似の言葉に技術承継がありますが、技術承継とは技術や経営資源を企業間で譲り渡すことを指します。企業の経営層など、次世代経営者への教育や指導などが中心です。
一方で、技術継承は組織内での知識やノウハウの伝達に重点を置いているのが特徴です。主に現場レベルでの技術伝達を指し、ベテラン社員から若手社員への技術指導や、日々の業務で培ったノウハウの共有が該当します。
技術継承が必要な理由
技術継承が必要とされているのは、製造業の人材不足が深刻化しているためです。
「2024年版 ものづくり白書」によると、製造業の就業者数は2022年の1,044万人から2023年は1,055万人と微増しましたが、中小企業の従業員数過不足DI(雇用人員の過剰・不足を示す指標)を見ると、製造業は2023年にマイナス20.4という結果になっており、従業員数の不足状況が深刻化しています。特に若い世代が不足しており、同資料によれば34歳以下の若年就業者数が2002年の384万人から2023年には259万人まで減っています。
他方、内閣府のデータによると、2025年には「団塊世代」が75歳以上に、2040年には「団塊ジュニア世代」が65歳以上を迎えます。今まで現場を支えてきたベテラン技術者が、あるタイミングから一斉に退職する可能性があるといえます。
このような中で製造業が運営を持続させるには、ベテランの技術者がいる間に、いかに今いる若い技術者に技術やノウハウを継承していくかが鍵となります。そこで重要となるのが技術継承という考え方です。
※出典:「2024年版 ものづくり白書 p.18」経済産業省
※出典:「同 p.18 図3」経済産業省
※出典:「高齢社会の現状に関するデータ p.3」内閣府
技術継承における課題
技術継承は今後ますます製造業において重要な取り組みとなるといえますが、従来の方法での技術継承が標準化されていたり、そもそも若手への継承方法がわからなかったりなど、多くの課題を抱えています。この章では技術継承における課題を解説します。
OJTに依存している
製造業では長年、OJTを中心とした技術継承が一般的でした。具体的には、ベテラン社員の作業を見学したり、実際の業務を通じて経験を積んだり、疑問点があれば都度質問したりしながら、失敗と成功を繰り返して習得していきます。
しかし、OJTによる教育方法は、教える側のベテラン社員の指導スキルによって教育の質が大きく左右されます。教える人によって伝える内容にばらつきが生じるため、技術の均質な伝承が難しくなっています。
また、ベテラン社員の退職時期が迫る中、OJTのような時間をかけた従来型の継承方法では間に合わないケースもあります。
このように、OJTに過度に依存した技術継承では、効率性と質の両面で課題が依然として残されています。
世代間においてコミュニケーションギャップが生じている
指導者側のベテラン社員は、そもそも「先輩の技術を見て覚える」という教育を受けてきたため、自身の持つ技術を言語化して伝える経験が不足しています。そのため、自身の作業の「暗黙知」を言葉で説明できないことや、若手の理解度に合わせた指導ペースの配分が難しいという点が課題です。経済産業省の調査によれば、製造業の6割以上(61.8%)の企業が「指導できる人材が不足している」と回答しています。この数字は、製造現場における指導者の難しさを表しています。
また、ベテラン社員は「厳しく指導することが成長につながる」という環境で育ってきた人も多いでしょう。しかし、現代の若手社員は厳しく指導されることに抵抗を感じてすぐに辞めてしまうといった傾向がみられます。このギャップにより、ベテラン社員が「どこまで言っていいのかわからない」「指導がパワハラと受け取られないか不安」といった懸念を抱き、積極的な技術指導を躊躇するケースは少なくないでしょう。
※出典:「2024年版 ものづくり白書 p.19」経済産業省
技術データが散在している
製造業では、図面への書き込み、個人のノートPCに保存された試作データなど、重要な技術データがさまざまな形式で、さまざまな場所に保管されがちです。
ベテラン社員は自身の経験から、これらの散在するデータの中から必要な情報を瞬時に見つけ出すことができますが、若手社員にとってはどのデータが重要で、どこに保存されているのかを把握することすら困難です。
さらに、過去の設計変更履歴や不具合対応の記録など、重要な技術情報も体系的に整理されていないケースも多く見られます。データの非構造化は技術継承を妨げる大きな要因のひとつです。
技術継承の課題を解決する方法
技術継承の課題を解決するには、デジタル技術の活用やマニュアル動画の作成など、さまざまな方法があります。この章では技術継承の課題を解決する方法を3つ紹介します。
デジタル技術を活用する
技術継承の効率化には、デジタルツールの活用が効果的です。ベテラン社員が長年培ってきた暗黙知をデジタル化することで、これまで個人に依存していた技術やノウハウを組織全体で共有できるようになります。
特に、CADDi Drawer(キャディドロワー)のようなクラウドシステムを導入することで、ベテラン社員だけが把握していた検索方法や判断基準を、誰でも使えるシステムとして構築できます。また、これまで社内に散在していた図面データを一元管理することで、貴重な技術資産として蓄積・活用できます。
さらに、材質や部品名などから簡単に図面を検索できるため、若手社員でもスムーズに業務を進められるようになります。このように、デジタルツールを活用すれば、これまでベテラン社員に依存していた技術やノウハウを、組織全体で共有・活用できる環境を整えることができます。
マニュアル動画を作成する
技術継承を効率化するには、作業手順を動画で記録し、マニュアル化することが効果的です。動画マニュアルは、作業の細かな動きや手順を視覚的に確認できるため、紙のマニュアルでは伝えにくい微妙なニュアンスまでを的確に伝えることができます。
また、音声による解説を加えることで、作業のポイントや注意点をより具体的に伝えられるでしょう。動画は作業工程ごとに分割して保存することで、必要な部分だけを効率的に確認でき、若手社員の自主的な学習にも活用できます。このようにマニュアル動画の作成は、ベテラン社員の指導時間を削減しながら、効果的な技術継承を実現できます。
ベテランと若手のコミュニケーションを深める
技術継承を成功させるには、ベテラン社員と若手社員の間で良好な関係を築くことが重要です。少人数制のグループ活動や作業後の振り返りなど、円滑なコミュニケーションを築ける取り組みを設けましょう。
特に、作業の合間にベテラン社員の経験談を聞く機会を設けると、若手社員は技術の背景にある考え方や判断基準を学ぶことができます。
また、若手社員からの質問や提案を積極的に受け入れる雰囲気作りも大切です。双方向のコミュニケーションを通じて、技術継承への意欲を高められます。
製造業における技術継承の成功事例
最後に製造業における技術継承の成功事例を2つ紹介します。
図面検索時間を年間7000時間削減し属人化を解消した企業事例
電力機器や設備などの製造・販売、工事を行う企業では以下のような課題を抱えていました。
【導入前の課題】
- 図面検索システムが図番でしか検索できず、過去の実績を知るベテラン設計者でなければ類似図面や活用可能な図面を探し出すことが困難で、属人化が進んでいた
- 経験による図面や技術資料の検索が多く、自力で必要な情報を探せない状況だった
【CADDi Drawer導入の経緯】
- CADDi Drawerのデモを見て、課題解決の可能性を感じた
- 類似図面の即時検索や、図面内の全情報をキーワード検索できる機能が、ニーズに合致
- システムメンテナンスに手間がかからない点もよかった
【導入の効果】
- 図面検索にかかる時間が8〜9割削減
- 設計工数全体で、2023年は年間3600時間、2024年度は年間7000時間の削減効果
- 新規図面作成が1〜2割削減され、設計部門だけでなく製造・調達部門の工数も削減
- 若手社員が自力で情報を探せるようになり、有識者への聞き込みが不要に
- 業務の属人化が解消され、部署間のデータ連携や活用意識が向上
組織全体のDX推進や企業文化の変革にもつながったとのことです。
※出典:初年度から年間3000時間以上を削減!今までできなかった設計ノウハウの資産化に成功した100年企業の挑戦 |日新電機株式会社様
次世代への技術継承が加速!若手社員の自主性を引き出した事例
ダイカスト製品及び金型の製造販売を行っている企業では、次のような課題を抱えていました。
【導入前の課題】
- 従業員の半数近くが55歳以上で、2032年までに大半が定年退職を迎える
- 職人的な技術を要するダイカスト製品の製造において、体系的な教育プログラムがない
- OJTのみに依存した教育体制で、効率的な技術継承ができていない
- 属人的な業務進行で、部署を超えた情報共有が困難
【CADDi Drawerを導入した経緯】
- 技術を起点とした世代交代の実現が必要だった
- 社内に蓄積された図面情報へのアクセス改善が急務
- 単なるDX化ではなく、具体的な課題解決ツールとして評価
【導入後の効果】
- 営業部:商談時に即座に必要資料を確認でき、顧客対応力が向上
- 技術部:過去の図面を参照しやすくなり、設計品質と効率が向上
- 品質保証部:全社共有の金型品番で迅速な図面検索が可能に
- 朝礼での図面を用いたトラブル共有など、技術継承が効率化
- 属人的な業務から脱却し、組織的な情報共有が実現
- 若手社員の図面への興味喚起につながり、勉強会などの取り組みも開始
今後は海外拠点や協力工場との連携強化の基盤を構築していきたいとのことです。
※出典: あえて「DX」という言葉から始めない。100周年に向け、“経験・技術”を伝承し、図面ベースで会話ができる職場へ。| 旭東ダイカスト株式会社
まとめ
技術継承は、ベテラン社員の退職によりノウハウの継承が急務になっています。しかし、従来の継承方法に捉われて、思うように技術継承ができないのが現状といえます。しかし、技術やノウハウの継承方法を見直し、標準化することで属人化を防ぎ、若手社員へのスムーズなスキル継承を進められます。
このような技術継承の課題を解決し、スムーズに業務を進めるには、CADDi Drawerの導入がおすすめです。CADDi Drawerを活用することで、属人化していた技術を組織の資産として活用できるようになります。過去のデータをファイル名や番号検索できることにより、これまでの検索時間を短縮できるとともに、若手社員でも容易に過去データを検索できるようになります。
ベテラン社員へ依存している業務を若手へ継承し、生産性の向上を目指したい企業様はぜひ導入をご検討ください。