イベントレポート
【CES2026レポート⑤重工業】AIでデジタルツインと自律化が加速する重工業の最前線

1月6日から9日まで、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジーイベント「CES2026」は、展示の大半がコンシューマー関連の製品やソリューションとなっている。そのため重工業関連の展示は厳選されたものだけが集まっていて、中でも自動車関連ホールにあった建築重機の展示が最も目立っていた。その中から関連展示を紹介する。
目次
NVIDIA、クアルコムの重工業向けソリューション
まずは、製造業全般についての記事でも触れたが、NVIDIAとシーメンスは産業用OSでの協業を発表した。シーメンスのキーノートではHD HyundaiがシーメンスのCADデータやソフトウェア、そしてNVIDIAの『Omniverse』などの技術を組み合わせることで、ボルト一つに至るまで再現された船全体の精密なデジタルツインを構築。これにより、デジタル上で設計・最適化を行ってから実際の建造に入ることが可能になっていることを紹介した。
NVIDIAの展示ブースでも、建築重機を開発するキャタピラーの工場をNVIDIAの『Omniverse』上に再現したデジタルツイン・ファクトリーを紹介し、アイコニックな建機コンポーネントの製造プロセスを最適化する様子がデモされた。デジタルツインにはライン上の設備・搬送・作業ステップがモデリングされ、センサーやMESからのデータと連携してAIがスループットや設備稼働率の最大化、予知保全のタイミング、段取り替えのシナリオなどをシミュレーションする。AI駆動のデジタルツイン・ファクトリーは現場で試す前に最適なレイアウト・運転条件を見つけることが可能であり、ダウンタイムとコストを削減できる。

NVIDIA『Omniverse』内、キャタピラーのデジタルツイン・ファクトリー
クアルコムのブースでは、IoT向けのチップセットとなる『Dragonwing』を使ったソリューションを展示。ガスや油田向けの産業ゲートウェイのデモを行った。これは現場のセンサーデータや、作業員の動きのビデオデータをゲートウェイに集積し、エッジでAI処理を行うもの。カメラ映像から漏えい・炎・煙・作業者の転倒などを検出するビジョンAI、時系列データから異常兆候を検知する機械学習などに利用できる。『Dragonwing』の高性能なNPUにより、AI処理が迅速に行われる。
ガス・油田では防爆認証や、危険な場所での利用を満たす仕様をクリアしなくてはならない。また一般的にカバーエリアが広いことから、複数カメラ接続や長時間録画用ストレージ搭載が必要なほか、長期供給・温度範囲・振動耐性など、一般オフィス向けのIoTゲートウェイより格段に厳しい環境仕様を満たす必要がある。この条件をクリアすることで、あらゆる産業へ対応可能なゲートウェイを顧客に提供できるわけだ。

クアルコムのガス・油田向けゲートウェイ
韓国Doosanはデータセンター向け電源インフラを展示
Doosanは、ブース中央に大型の380MW級ガスタービンの1/6スケール模型を設置し、来客からの注目を集めた。これはAIデータセンター向けの電源であり、アメリカの大手IT企業からすでに5基受注しているとのこと。さらに、次世代タービン発電機として、2028年に100%水素燃料タービンを商用化するロードマップも示し、火力から水素への橋渡し技術としてアピールしていた。
小型モジュール炉(SMR)はモックアップを複数展示。データセンター規模に応じた様々な出力の組み合わせが可能だ。さらに燃料電池も展示し、水素・天然ガス・LPG対応のモジュールを組み合わせることで、マイクログリッドやデータセンター向けの主電源・バックアップ電源としても構築可能。地域向けエネルギーソリューションにも対応できる。

Doosanの380MW級ガスタービン模型
また、傘下のDoosan Bobcatは次世代コンセプトローダー『RogueX3』を発表し、実物大の模型を展示した。ゼロエミッションの電動駆動で、静音かつ高トルクな電気モーターを採用。従来のディーゼル機械より低騒音・低振動を実現した。モジュラー設計で、キャブの有無やホイール・リフトアームやアタッチメントを自由に組み替えできる。センシングデータをもとに障害物回避や作業パターン学習、遠隔操作支援などを可能にするAI機能も搭載しているが、コンセプトモデルであり商用化は未定だ。

Doosan Bobcat『RogueX3』
重機メーカーもAIを積極採用
キャタピラーは「Industrial AIと自律施工の次の時代」をテーマに展示を行い、重機のAI操作のデモを行った。『Cat AI Nexus』は、AIによるリアルタイム作業ガイダンス、安全支援、フリート管理を行う。また、今回『Cat AI Assistant』も発表。これはNVIDIAのRiva音声モデルなどをベースにしたアシスタントAIであり、音声対話で運転席や整備現場から重機に質問すると、操作ガイドやメンテナンス手順、推奨設定をリアルタイムで提示してくれる。さらに危険エリア接近時の警告や、架線・埋設物の回避などの安全機能とも連携する。

キャタピラー『Cat AI Assistant』
上述のように、キャタピラーは既に設計現場でデジタルツイン・ファクトリーを導入しており、効率的な製品開発を実現している。
ジョンディア(ディア・アンド・カンパニー)は「自律重機とAIによる農作物の収穫自動化」をブースで見せた。最新モデルの『X9 1100 Combine』は小麦・トウモロコシ・大豆・米などの大面積穀物を一度に刈り取り、脱穀・選別してタンクに収納。1時間あたり100トン超の収穫能力を持っている。GNSSガイダンスとステレオカメラを搭載し、自動操舵と収穫パラメータ制御を行うことで、ほぼ完全な自動運転も可能。
さらにAI機能として「予測型走行速度自動制御」と「収穫条件自動制御」も搭載。カメラとセンサーが前方の作物状態や水分、収量を推定しながら、走行速度やローター回転、ファン風量などをリアルタイムで自動調整する。なお、クラウド上の『John Deere Operations Center』に接続され、収穫量・作業ログ・機械状態などを自動送信し、リモート監視や解析、シーズン後の投資対効果算出を容易にする。

『X9 1100 Combine』のAI機能や設定デモ
Vögeleと共同開発した新型ロードペーバー(アスファルトフィニッシャ)には、同社が開発した『Smart Pave』システムが搭載されており、ジョンディアのGPS・クラウド基盤を組み合わせることで、路面の高さをスキャンしながら、自動で走行経路・舗装幅・位置を制御する。路面状態の確認にはAIビジョン解析も使用される。舗装プロセスのデータ(施工厚、位置、CO2排出、燃料消費など)は『John Deere Operations Center』に送られる。

Vögeleと共同開発のロードペーバー
クボタはスマート農業を支援
日本のクボタは、3年連続で出展を行っている。今回は大型の農業機械を展示したが、どちらかといえばAI・自律化・デジタルツインを組み合わせたスマート農業ソリューションとしての展示であったといえる。Agtonomyと共同開発した自律走行トラクターは、105.7馬力のディーゼルエンジンを搭載し、センサー群とAIベースの自律走行・障害物検知・作業パターン自動化を統合した量産品レディな状態で展示された。

クボタとAgtonomy共同開発のトラクター
変形・伸縮して高さや幅を変えられる『KVPR(Kubota Versatile Platform Robot)』コンセプトは、農業と土木作業を一台でこなすトランスフォーマー型ロボットと呼べる製品である。アタッチメントの自動交換や横移動などが可能。さらに圃場全体をリアルタイムにモニタリングできる「Digital Twinning System」もデモした。センサー・機械・クラウドをつなぎ、作業履歴・生育状況・機械状態を一元管理してROIや労務計画まで含めた経営判断を支援する、人間中心のスマート農業基盤としてアピールされた。

クボタ『KVPR』
Strayten Energyは、ジープをベースにしたハイブリッドディーゼル・コンセプト自動車『Reluctance』を展示。災害時やオフグリッド環境で電力を供給する「走る発電所」であり、モバイルマイクログリッドとして広義のインフラ/エネルギー装置と紹介されていた。
5.9リッターのディーゼルエンジンを発電用に搭載し、最大275kWクラスのCascadia Motion製トラクションモーターを駆動。車載バッテリー容量は約130kWhで、ディーゼル発電機から約15分で20→80%まで充電可能。燃費は最大約31.8km/Lで、一回の燃料とバッテリーで最大約1.1万kmの走行が可能だ。フル充電時は、平均的な住宅1軒を3日間まるごと給電できる電力量を持つ。災害時の電源や遠隔地の作業キャンプ向けに外部AC出力も備えている。

Strayten Energy『Reluctance』
フィジカル重工業を見せるOshkosh
Oshkoshはブース内を「空港」「住宅街」「工事現場」のシーンに分け、それぞれに適した重機や特殊車両にAIや自動化の仕組みを落とし込んだ重工業向けのフィジカルAIを見せた。
「住宅街」ゾーンでは『CAMS(Collision Avoidance Mitigation System)』を説明した。ごみ収集車やバス、消防車などに搭載される衝突回避支援で、カメラとセンサーで周囲の歩行者や車両を監視し、危険な接近を検知するとリアルタイムに警告、制動をサポートする。 またAI汚染物検知として、リサイクルごみに混入したバッテリーやスプレー缶などを検知するシステムのデモも行った。燃えるごみのラインに紛れ込んだ危険物を早期に見つけ、処理場火災や作業者事故のリスクを下げる。

Oshkosh『CAMS』
「空港」ゾーンには『Striker Volterra 電動空港用消防車』を展示。電動車であることから、従来のディーゼル車より高速・静粛、かつ素早く滑走路へ移動可能。機動力と環境性能を両立する次世代空港消防車である。「工事現場」ゾーンでは、JLGブランドの電動ブームリフトを展示。ロボットアーム的なエンドエフェクタを組み合わせ、高所作業での繰り返しタスクを自動化する。建機の先、すなわち「建設ロボット」という位置づけの製品になる。

Oshkosh『Striker Volterra』
重工業向けのソフトウェア・ソリューション
Tracetronicの『one:cx』は、商用車から重機まで幅広い製品分野で使用できるモビリティを中心としたソフトウェア開発向けのテスト・リリース管理プラットフォーム。ECU(Electronic Control Unit、電子制御ユニット)やADAS(Advanced Driver Assistance Systems、先進運転支援システム)、車載ソフトなどの機能テストをクラウド上で自動化し、要件定義・ビルド・テスト・リリースまでのワークフローを一元管理可能。また、AIを使ってテストスクリプト自動生成、ログ・結果の自動解析、パターン検出、エラーの早期兆候検知などを行う「AIアドオン」も提供する。重機など複雑な構造のシステム全体もテスト可能だ。

Tracetronicの『one:cx』
FOExは、爆発のおそれもある危険環境向けのクラウド型安全管理SaaS『FOEx Suite』のデモを行った。LNG・水素・アンモニア船、石油・化学プラント、研究所などの防爆エリアをターゲットとしており、設備台帳と点検・認証情報を一元管理する。特徴は防爆評価アルゴリズムを組み込んだクラウドDBとモバイルアプリの連携で、現場作業者は防爆機器のQRコードやIDタグを読み取るだけで、該当機器の規格・ゾーン区分・必要な点検項目が自動表示され、ガイド付きで巡回点検を進めることができる。
点検結果や写真は即座にクラウドへ送られ、管理者側のダッシュボードでリスク度合いや是正処置の進捗、認証期限切れ機器などの可視化が可能。紙ベースのチェックシートとスプレッドシート台帳に依存しがちな防爆設備管理をSaaS化し、規制対応と事故リスク低減を同時に狙う。2026年中に商用サービスを開始予定。

FOEx『FOEx Suite』
巨大建機に宿る「知能」とデジタルツインが塗り替える重工業の最前線
CES2026では、重工業が単なる「巨大な機械の提供」から「知能化されたシステム」へと転換する姿が鮮明となった。NVIDIAとシーメンスは、船舶や建機工場の精密なデジタルツインを構築し、設計・製造の最適化を実現。また、Doosanは爆発的に増えるAI需要を支えるデータセンター向け巨大ガスタービンを披露し、AI社会のエネルギー基盤としての存在感を示した。
現場レベルでは、キャタピラーやジョンディアがAIアシスタントや自動収穫システムを備えた自律重機を展示。クボタも変形型ロボットでスマート農業の未来を提示した。さらに、Oshkoshの衝突回避システムや危険環境向け管理SaaSなど、安全性を担保する技術も成熟している。物理的な「力」にAIという「知能」が宿り、労働不足や環境負荷といった難題を解決するフィジカルAIの社会実装が、重工業領域でもいよいよ本格的なフェーズに入ったと言えるだろう。
(取材・執筆:P.P. Communications)
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キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げ、製造業AIデータプラットフォームCADDi を提供しています。 このミッションを全世界で実現するための活動の一環として、2026年1月5日〜9日にラスベガスで開催された「CES2026」にもブースを出展いたしました。
本シリーズでは、出展に合わせて現地で視察した「製造業を変革するために不可欠な最先端テクノロジー」や「最新のトレンド」について、全6回にわたりお届けします。