イベントレポート
【CES2026レポート②AI】 自律型AIエージェントが生活と社会を能動的に支えるパートナーへ進化

1月6日から9日まで、米ラスベガスで世界最大のテクノロジーイベント「CES2026」が開催された。IT業界は今やAI抜きでイノベーションを語ることはできず、CES2026でもAIに関する展示が多数見られた。特に注目すべきはAIエージェントで、AIが「単なる支援技術」から「自律的に行動し価値を生み出す主体」へと役割を拡張しつつある点が鮮明に見られた。
目次
NVIDIAとAMDがAI戦略を説明

NVIDIA ジェンスン・フアンCEO(出典:NVIDIA)
このAI時代に注目を浴びている企業の筆頭がNVIDIAとAMDだ。NVIDIAはCES2026で基調講演を行い、CEOのジェンスン・フアン氏が次世代基盤『Vera Rubin』を発表。全計算層を再発明する戦略を掲げ、「自律的に推論し行動するAIエージェントや物理的AIが、従来のソフトウェアに代わる企業の新たなUIとなる」未来を鮮明に提示した。
ジェンスン・フアンCEOは、レノボがラスベガスの新たなランドマーク的巨大シアター「スフィア」で開催したイベント「Lenovo Tech World @CES 2026」にも登壇し、AI戦略を明確に示した。大規模言語モデル(LLM)が将来のアプリケーションにおけるOSのような基盤層になると予測。AIが思考の連鎖を用いて「推論」を行うようになり、計算需要が爆発的に増加すると語った。

Lenovo Tech World @CES 2026
さらに、レノボと共同で「AIクラウド・ギガファクトリー」を構築し、1兆パラメータ規模の巨大なLLMの運用を支援すると表明。これは世界のスパコンの3分の1を製造するレノボの知見を活かし、複雑なシステムを迅速に「AI工場」として稼働させるための取り組みとなる。これにより、クラウドプロバイダーは数十万個のGPU規模での大規模なAI運用を、より低遅延で実現できるようになる。
他方、AMDの基調講演ではCEOのリサ・スー氏がAIを自社の最優先事項に位置づけ、AIをあらゆる場所の、すべての人へ届けるという戦略を提唱。「AIは過去50年で最も重要な技術であり、その基盤となる計算能力の提供がAMDの使命である」と強調した。
AI戦略の核心は、クラウド、PC、エッジという全プラットフォームにAIを導入することにあり、AMDはGPU、CPU、NPU、カスタムアクセラレータをすべて揃える唯一の企業として、各ワークロードに最適化された基盤を構築している。同社は今後5年以内に世界の計算能力を2022年比で1万倍にあたる「10ヨッタ(10Y)フロップス」以上に引き上げる「ヨッタスケール・コンピューティング」の実現を目標に掲げた。ちなみにヨッタは10の24乗で、メガ(10の9乗)、テラ(同12乗)、ペタ(同15乗)、エクサ(同18乗)、ゼタ(同21乗)の上の単位だ。

AMD リサ・スーCEO
そしてAIエージェント戦略については、AIを単なるツールから、ユーザーの習慣を学習して助けるアクティブなパートナーへと進化させると説明した。具体的には複数のAIモデルを組み合わせたエージェント的なワークフローの構築を提唱。2000億パラメータ規模のモデルをオフラインで実行し、ローカル環境で直接エージェントを構築・テストできる開発者向けプラットフォーム『Ryzen AI Halo』を発表した。
AMDの基調講演には「AIのゴッドマザー」と呼ばれるフェイフェイ・リー氏も登壇。AIの次なる大きな波として、「マシンに人間のような能力を与える空間知能(Spatial Intelligence)」の重要性を強調した。同氏が率いるWorld Labsの技術は、ロボットや自動運転車などのインテリジェント・エージェントの学習基盤となり「将来のエージェントAIは空間知能を備え物理的な環境で人間を支援する、より高度で自律的なパートナーになるだろう」と語った。

フェイフェイ・リー氏(右端)
CES Foundryが初開催
CES2026の期間中、1月7日と8日の2日間限定で、AIと量子技術に特化した公式サイドイベント「CES Foundry」が開催された。会場は、LVCC 西ホールの隣にある「Fontainebleau Las Vegas」。関連する講演やパネルディスカッション、展示が行われた。

CES Foundry
NVIDIA、WESCO、PwC、Deloitte、IBMなどの企業が登壇。エージェントAIに関してはZebra社が「AI主導のワークフロー」等をテーマに登壇した。会場は狭いものの講演には多くの人が集まった。
展示では、GTS社がユーザーの意図や文脈を学習し、全デジタルプラットフォームでエージェントとして振る舞う適応型AIエージェント『Cicero』を紹介。BuildWithin社の『SkillsNation』は企業内のスキルギャップを可視化し、学習コンテンツやキャリアパスを自動的にレコメンドする人材育成プラットフォームを紹介。他にも、superQが量子コンピューティングを活用したチャット型AIエージェント『ChatQLM』を展示した。

superQ『ChatQLM』
なお「Fontainebleau Las Vegas」のオープンスペースにはNVIDIAが出展し、様々な製品・サービスを披露した。最新のGPU製品や、パートナー企業が手がける自律型ロボットなどハードウェアの展示が最も多かったが、ソリューション系の展示もいくつか見られた。その中で、AIエージェントを構築・運用するための公式フレームワーク『NeMo』に関連した説明やデモも行われた。
例えば、プログラムのバグや誤りをチェックするコードレビュー支援ツール『CodeRabbit』は、NVIDIAのLLM『Nemotron』を中核に添え、リポジトリ全体やプルリクエストの差分コードを解析して文脈を把握する。 そのうえで『NeMo』エコシステムのワークフローと連携しながらバグの可能性や設計上の懸念点、必要なテスト観点等をコメントとして自動生成。開発者の代わりにレビュー作業の大部分を担うコードレビュー専用のAIエージェントとして機能するというものだ。

NVIDIA『CodeRabbit』
エージェント化する家電製品
家電製品全般の大きな進化として、AI機能を本格的に搭載する動きがみられた。従来のTVでもAIがコンテンツに応じて自動的に色調整を行うといった機能は見られたが、まだユーザーの好みや志向を反映するものではなかった。だが今回、サムスン電子が披露した新しい家電搭載技術は「ユーザーのためのAI」であり、エージェント機能を提供する。
例えば、TVに搭載される『Vision AI Companion』は、TVをユーザーと会話のできる「マルチAIエージェントハブ」に変えるプラットフォームだ。操作はTVのリモコンに内蔵されたマイクに話しかけることで行う。映画やドラマを視聴中に「この俳優は誰?」と聞けばポートフォリオを表示してくれるし、また料理番組中に「調理方法を教えて」と聞けば、レシピを手順付きで表示してくれる。スマートフォンやPCを使わずとも、TVが直接回答してくれるのだ。

Samsung『Vision AI Companion』
このほか、スポーツ番組を視聴中に選手の成績を聞いたり「どちらが勝つと思う?」と聞けば、最新のスタッツ(数値・統計データ)などから勝敗の行方を推測してくれるし、旅行番組を見ていて「5月にここに行きたい」と尋ねれば、滞在先の天気や観光地情報などを表示し、旅行計画の足がかりとなる情報を得ることもできる。いずれはファッションを見ながら「この洋服を買いたい」と聞けば、ECサイトを表示してそのままオンラインストアで購入まで進む、といった機能も搭載されるだろう。
このVision AI Companionは、サムスン電子開発の『Bixby』、マイクロソフトの『Microsoft Copilot』そして『Perplexity AI』を統合した「Open, Multi‑AI Agent Platform」として動作している。
加えて家電製品では、同社を代表するホームハブ的な冷蔵庫『Family Hub』にグーグルの『Gemini』が搭載され、AI機能が強化。従来の『Bixby』では、庫内カメラで認識できる食材の数は37種類の生鮮食品とユーザーが登録した50種類の加工食品のみに限られていたが、Geminiの搭載によって加工食品は事前登録不要、手書きラベル付き容器の中身もリスト化できるようになった。さらに、冷蔵庫内の食材からリコメンドしてくれる料理の幅も大きく広がっている。つまるところ、冷蔵庫がただの食材倉庫から『フードマネジメントAIエージェント』に進化したのだ。

Samsung『Family Hub』
サムスン電子以外では、ハイセンスが自社開発のLLM『HiStar』をベースにした『ConnectLife AI Agent』を発表。これは冷蔵庫・エアコン・洗濯機・オーブンなどを横断して制御するフルシナリオAIエージェントである。冷蔵庫が食材を分析して最適な保存条件やメニューを選定、さらにワインの組み合わせを提案し、スマートレンジと連携して調理手順をガイドするといったように、家事全体をオーケストレーションする機能となる。
車載エージェントAIも登場
自動車関連企業の集まる「西ホール」でもエージェントAI関連の展示が見られた。具体的には、車載エージェントAIが、ナビゲーションや車両設定、インフォテインメントを横断操作しつつ、危険行動の注意喚起や休憩提案などで安全性と快適性を高める、移動中のコンシェルジュとして機能するユースケースが多くみられた。
SoundHound AI社のエージェントAI『Amelia 7』は、自動車向けの会話型音声アシスタントを中核に複数のAIエージェントをオーケストレーションして、タスクや取引を自動実行するプラットフォーム。生成AIと従来型ボイスアシスタントを組み合わせ、対話の文脈維持やフォローアップ質問にも対応しながら、車両情報からクラウドの各種サービスまで横断的にアクセス可能だ。運転中に音声だけで飲食店の予約・注文、駐車場やフライト、ホテルの予約などを完結できる。さらにカメラ映像と音声認識を統合したVision AIにより、周囲の状況を見て理解するアシスタントも実現し、車両診断や点検予約、カレンダー連携による予定調整なども行える。

SoundHound AI
drivebuddyAI社の「ドライバー支援エージェント」は、車内カメラと車両データから運転状況をリアルタイム解析し、前方衝突や車線逸脱、追突リスクのほか、スマホ操作・未装着シートベルト・まばたきパターンなどの危険行動を検知し、その場で音声やアラートでドライバーに介入し行動変容を促す。累計35億km以上の膨大な収集走行データまでクラウド側で継続学習させ、リスクプロファイルや独自スコアリングアルゴリズムを更新しながら、どのドライバーにどんなコーチングをすべきかを自律的に提案。車載エッジAIとクラウドAIがサイクルを回しながら危険運転を減らす仕組みだ。
このほか、AISpeech社はヒトと機械の対話を一元化する会話型AIプラットフォームを出展。車載向けの『Orphi Voice Assistant』を中核とし音声認識・合成・言語理解・ノイズ抑圧などを統合したエンドツーエンド基盤の上で、ナビ操作や車両状態確認、エンタメ、車外サービス連携までを音声エージェントが代理実行する。座席別に応答を変えるマルチゾーン音源定位・声紋認証も備えている。

AISpeech
自律型AIエージェントが日常のあり方を変える時代の幕開け
コンシューマー向けには、Intuition Roboticsの『ElliQ』のように、高齢者のそばで行動パターンや会話履歴、感情の傾向などを学習したうえで自ら声をかけ、服薬時間や血圧チェック、ストレッチや散歩といった健康タスクを提案し、その実行状況を記録して継続できるよう、会話やコンテンツを変化させるエージェント機器も展示されていた。
AIが単なる支援技術から「自律的に行動し、価値を生むエージェント」へと進化した姿が鮮明になった。NVIDIAやAMDは、推論能力を備えた次世代基盤や圧倒的な計算能力を発表し、AIが社会の新たなUIやOSとなる未来を提示した。
この進化は、生活のあらゆる場面に浸透している。家電はユーザーの意図を汲み取る「対話型ハブ」へ、自動車は安全と快適を支える「移動型コンシェルジュ」へと変貌を遂げつつある。また、ビジネスや介護分野でも、AIが個人の習慣を学習し、能動的にタスクを遂行するパートナーとしての役割を確立しようとしている。後から振り返ったとき、全プラットフォームでAIが生活を能動的に支える、新時代の幕開けを象徴する節目となる展示だったといえるだろう。
このように、CES2026では、AIが自律的に思考し行動するAIエージェントへの進化事例の展示が多くみられ、日常のあり方を劇的に変える未来像が示された。AIが人間を能動的に助ける不可欠な存在となる世界が、ようやく現実のものになろうとしている。

Intuition Roboticsの『ElliQ』
(取材・執筆:P.P. Communications)
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キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げ、製造業AIデータプラットフォームCADDi を提供しています。 このミッションを全世界で実現するための活動の一環として、2026年1月5日〜9日にラスベガスで開催された「CES2026」にもブースを出展いたしました。
本シリーズでは、出展に合わせて現地で視察した「製造業を変革するために不可欠な最先端テクノロジー」や「最新のトレンド」について、全6回にわたりお届けします。