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製造業のカーボンニュートラルとは?必要性や課題・施策を解説

製造業のカーボンニュートラルとは?必要性や課題・施策を解説

製造業のカーボンニュートラルとは?必要性や課題・施策を解説

近年、製造業においてカーボンニュートラルへの対応は避けて通れない課題となっています。特に、取引先からの要請や社会的な責任の観点から、具体的な取り組みが求められているものの、多くの企業では「何から始めればよいのか分からない」「コストや人材面での課題が大きい」といった悩みを抱えています。

さらに、製造業のカーボンニュートラルは、原材料調達から製造、物流、廃棄に至るまでの全工程でCO2排出削減が必要となり、取り組みの範囲も広く複雑です。

このような課題に対しては、自社の状況に合わせた段階的なアプローチが有効です。例えば、CO2排出量の可視化から始め、省エネ対策や再生可能エネルギーの活用など、投資規模に応じた施策を計画的に実施していくことで、着実な成果を上げることができます。

この記事では、製造業のカーボンニュートラルについて、基本的な考え方から具体的な取り組み方法までを解説します。

目次

製造業のカーボンニュートラルとは?

製造業のカーボンニュートラルとは、製造過程で排出される温室効果ガスの排出量をゼロにする取り組みです。温室効果ガス排出量は、国際基準の「GHGプロトコル」によって以下の3段階に分類されています。

  • スコープ1:工場での燃料使用など、自社による直接排出
  • スコープ2:購入した電力や熱の使用による間接排出
  • スコープ3:原材料調達、製品輸送、廃棄など、その他の間接排出

製造業の場合、原材料の調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまでの全工程でCO2が排出されるため、これら全てのスコープでの排出量削減が求められます。

カーボンニュートラルを実現するには、まず排出量を可能な限り削減し、それでも残る排出量については森林吸収や再生可能エネルギーの活用などで相殺する必要があります。

なぜ製造業にカーボンニュートラルが必要なのか?

製造業にカーボンニュートラルが必要な理由は、カーボンニュートラル宣言の影響や製造業がCO2排出量部門別TOPである点が挙げられます。この章では、製造業においてカーボンニュートラルの必要性について解説します。

カーボンニュートラル宣言の影響

2020年10月、日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表し、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指しています。また、中間目標として2030年度までに2013年度比で46%の削減を掲げ、さらに50%削減への挑戦も表明しました。

これを受けて製造業界では、サプライチェーン全体での排出量削減が求められ、取引先からの脱炭素化対応要請も増加しています。そのため、製造業では具体的な削減目標を設定し、実効性のある取り組みを早急に実施することが必要です。

※出典:「第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組」経済産業省

CO2排出量が部門別TOP

環境省のデータによると、日本の温室効果ガス排出量を部門別で見ると、工場を含む産業部門は3億5,200万トンで、全体の約30%を占めています。

また、産業部門は日本のCO2排出量全体(10億3,700万トン)の中で最大の排出源となっています。そのため、産業部門における脱炭素化の取り組みは、日本全体のカーボンニュートラル実現に向けて特に重要な位置づけとなっています。

※出典:「2022年度(令和4年)温室効果ガス排出・吸収量について p.19」環境省

温室ガス排出量の規定に全て当てはまる

製造業では、原材料の調達から製品の廃棄まで、全ての事業活動でCO2が排出されるため、前述した1~3までのスコープ全ての対応が必要となります。

特に、製造工程での直接排出(スコープ1)と電力使用(スコープ2)に加え、取引先との協力による間接排出(スコープ3)の削減が重要な課題となっています。このように、製造業は事業活動の全段階でCO2を排出するため、サプライチェーン全体での包括的な取り組みが不可欠です。

製造業が直面するカーボンニュートラルの課題

カーボンニュートラルの推進については、不透明な部分はあるものの、コストがかかったり、効果が実感しにくかったりなどの課題がよく指摘されています。

コストがかかる

製造業のカーボンニュートラルを実現するためには、生産設備の省エネ化や再生可能エネルギー設備の導入、CO2排出量の計測・管理システムの構築などのコストが必要です。

予算に余裕がない企業や他の業務改善への投資を優先せざるを得ない企業では、カーボンニュートラルへの取り組みが難しい状況です。

効果を実感しにくい

CO2削減量を可視化しにくく、投資対効果が実感しにくいことも、カーボンニュートラルに取り組む際の課題です。

CO2排出量の計測では、工場での燃料使用など直接排出(スコープ1)は比較的計測しやすい傾向にあります。

一方、サプライチェーン全体にわたる間接排出量は、データ収集の範囲が広く他社との連携が必要なため把握が困難です。また、長期的な取り組みとなるため、短期での成果が見えづらいという特徴があります。

ノウハウが不足している

カーボンニュートラルを実現するには、CO2排出量の正確な算定方法や省エネ設備の選定基準といった専門知識が必要です。しかし、カーボンニュートラルが比較的新しい分野であることもあり、多くの製造業では何から始めればよいかわからないのが実情です。

 

製造業のカーボンニュートラルの具体的な施策

カーボンニュートラルには多くの課題がありますが、DXを推進したり、省エネ対策をしたりと具体的な施策もあります。この章では製造業のカーボンニュートラルの具体的な施策について解説します。

製造業DXを推進する

製造業のカーボンニュートラルを効率的に実現するためには、デジタル技術を活用したDXの推進が有効な手段となります。具体的には、IoTセンサーを設置して設備の稼働状況やエネルギー使用量をリアルタイムで把握する、AIを活用して生産工程の最適化を図る、などが挙げられます。

また、収集したデータを分析し、無駄な電力消費を特定することで、省力化や省エネルギーを実現できる可能性があります。

CO2排出量を可視化する

製造業におけるCO2排出量の可視化は、LCA(ライフサイクルアセスメント)を活用して進めていきます。LCAとは、製品の原材料調達から製造、使用、廃棄までの全工程における環境負荷を定量的に評価する手法です。

LCAでは、まず評価する製品や工程などを決定します。次に工場での燃料使用量、電力使用量の月次データ、材料調達における排出量などの活動量のデータを収集します。続いて、排出係数(活動量当たりの排出量)を収集し、最後に「活動量×排出係数」から温室効果ガスの排出量を計算します。

これらのデータを可視化し、自社のCO2排出量の全体像を把握することで、どの項目や工程で環境負荷が高いかを見極められます。なお、LCAの実施にあたっては、ISO 14040といった国際規格に基づいて進めることが推奨されています。
また、日本商工会議所が提供する「CO2チェックシート」を活用すれば、基本的な排出量の可視化が可能です。

出典:「令和7年3月 第Ⅱ編 温室効果ガス排出量の算定方法 Ⅱ-15 」環境省
出典:「CO2チェックシートについて」日本商工会議所

省エネ対策を行う

製造現場での省エネ対策は、初期投資を抑えながら着手できる効果的な取り組みです。

具体的には、設備関連の対策としては、工場照明のLED化や空調設備の温度設定最適化、コンプレッサーの圧力設定の見直しなどが挙げられます。これらの対策は、大きな設備投資を必要とせず、段階的に実施することができます。

また、省エネ診断を活用すれば、自社に適した対策を見出せる可能性があります。

※出典:「省エネ診断」環境共創イニシアチブ

再生エネルギー由来の電力に切り替える

製造業のカーボンニュートラル実現に向けて、電力の脱炭素化は重要な取り組みの一つです。

例えば、再生可能エネルギー電力メニューへの切り替えや電力会社が提供する再生エネルギー電力プランへの契約変更などが挙げられます。また水力発電や風力発電、太陽光発電の導入も効果的です。

なお、全面的な切り替えが難しい場合は、一部の工場や事務所から試験的に導入するのもひとつです。

補助金制度を活用する

経済産業省ではカーボンニュートラル推進のための補助金制度を設けています。太陽光発電設備や脱炭素技術等による工場・事業場の省CO2化加速事業など、さまざまなカーボンニュートラルに関する補助金を支援しています。対象や要件によって支援額は異なりますが、こうした支援策を活用することで、コスト負担を軽減しながら取り組みを進められるでしょう。

出典:「2025年4月 中小企業等のカーボンニュートラル支援策」経済産業省

専門家から知識を習得する

カーボンニュートラルのノウハウが不足している企業向けに、中小企業基盤整備機構では無料で専門家によるアドバイスを提供しています。オンラインでの相談も可能なため、地理的な制約なく専門家の知見を活用できることもメリットです。
具体的には以下のようなアドバイスを行っています。

  • CO2の具体的な調べ方
  • COs排出量の算定やアドバイス
  • 取引先へのアピール方法
  • 自社の取り組みに関するチェックシートの活用

カーボンニュートラルに関する知識がなくても、こうした支援機関を活用することで、必要なノウハウを段階的に習得できます。

出典:「カーボンニュートラル相談窓口」独立行政法人中小企業基盤整備機構

製造業がカーボンニュートラルを活用するメリット

上記のような具体的施策を行うことで、企業の環境価値や生産性の向上、新たなビジネスの可能性など、さまざまなメリットを享受できます。この章では製造業がカーボンニュートラルを活用するメリットを解説します。

企業の環境価値が向上

カーボンニュートラルへの取り組みは、ESG投資の対象としての評価が高まり、投資家からの注目度が向上します。また、環境配慮型企業として社会的な認知度も上がり、ブランド価値の向上にもつながるでしょう。

加えて、多くの大手企業が自社のスコープ3削減のために取引先にもCO2削減を求めているため、大手企業のサプライチェーンで優先的に選ばれる可能性があります。

生産性が向上する

製造現場の生産性向上もカーボンニュートラルのメリットです。

例えば、エネルギー使用量の見える化により無駄を発見できたり、設備稼働の最適化によりロスを削減できたりします。特に、IoTセンサーやAIを活用したデータ収集・分析により、電力使用量の削減や設備稼働率の向上なども期待されるでしょう。

このように、カーボンニュートラルの推進は、CO2削減活動を通じて製造現場のさまざまな課題を発見・改善でき、環境対策と収益性向上の両立の実現につながることがあります。

新しいビジネスチャンスの可能性が広がる

カーボンニュートラルへの取り組みは、新たなビジネス機会の創出につながるでしょう。

例えば、省エネ設備や再生可能エネルギー関連機器の製造、リサイクル可能な素材を使用した製品開発、環境負荷の少ない製造プロセスの確立などが挙げられます。

一方で、環境対策に消極的な企業は、取引先からの信頼低下や投資家からの評価下落により、ビジネスチャンスを失うリスクが高まっています。

カーボンニュートラルは、新たな成長機会を創出するという攻めの面と、運営のリスクを回避するという守りの面の両方に良い影響をもたらします。

まとめ

製造業のカーボンニュートラルは、企業の持続的な成長に直結する重要な経営課題です。取り組みを成功させるためには、まず自社のCO2排出量を正確に把握し、どの工程で排出量が多いのかを可視化することから始めましょう。

次に、IoTやAIなどのデジタル技術を活用することで、生産性の向上とCO2削減を同時に実現できます。

さらに、カーボンニュートラルへの取り組みは、取引先からの信頼獲得につながり、新規取引の拡大にも効果的です。多くの企業がサプライチェーン全体での排出削減を目指す中、環境対策に積極的な企業は社会的な認知度も向上するでしょう。

まずは自社の状況に合わせて小さな取り組みから始めて、成果を確認しながら段階的に拡大していくアプローチが、持続可能なカーボンニュートラル戦略の実現につながります。

キャディ編集部

Authorキャディ編集部

製造業に特化した記事を執筆しています。技術の最新トレンドや業界の動向、生産効率の向上に関する実践的なTipsなど、みなさまが現場で活かせる情報を提供することを目指しています。また、製造現場の課題解決や改善に役立つツールやリソースの紹介も行っています。業界のエキスパートとのインタビューや成功事例の共有を通じて、製造業の未来を切り拓くサポートをしてまいります。