調達の自動化でDX推進！メリットや実践に必要な10のステップ

調達の自動化とは

調達業務はカスタム部品や既製部品の調達、サプライヤー管理、納期管理など、さまざまな業務が含まれます。

これらの業務を効率化するため、調達の自動化が注目されています。 調達の自動化とは、要求や承認、発注、請求書処理に至るまで、購入プロセス全体をデジタル ツールやソフトウェアで合理化することです。

調達を自動化すれば、以下のような業務をスムーズに実施できます。

要求承認	調達部門は、デジタルフォームやリストビューを通じて製造部門などからの要求を一元管理できる  検索や並び替え機能で効率的に情報を把握できる
サプライヤー選定	過去の実績や価格などの基準から、最適なサプライヤーを自動推奨・客観的なデータに基づく選定ができる
承認プロセス	承認申請を担当マネージャーへ自動転送できる 承認状況をリアルタイムで把握できる
発注・受注・支払	承認済み要求を発注書に自動変換しサプライヤーへ送信できる 入荷商品を在庫システムへ自動反映できる 請求書と発注書・受領書を自動照合し、支払処理を効率化できる

調達と購買の違い

製造業の調達業務において、「購買」と「調達」という2つの言葉が使われます。これらは似ているようで、活動の範囲と目的において違いがあります。

まず「購買（Purchasing）」とは、企業が必要とするモノやサービスを、定められた仕様、価格、納期などの条件で購入する行為そのものを指します。これは、承認された要求に基づき、発注書を作成・送付し、支払い処理を行うといった、比較的短期的な取引の実行に焦点を当てた活動です。

一方、「調達（Procurement）」は、「購買」を含みつつも、より広範で戦略的な活動全体を指します。これには、ニーズの特定、市場調査、サプライヤーの探索・評価・選定、価格・条件交渉、契約管理、リスク管理、サプライヤーとの関係構築・維持、そして購買した物品の品質・納期管理といった一連のプロセスが含まれます。つまり、調達は単にモノを買うだけでなく、サプライチェーン全体を見渡し、企業の競争力強化に貢献するための戦略的な機能です。

言葉の定義としては以上のように分けられますが、製造業の現場では「購買・調達」と一括りに表記されることも多いです。

調達を自動化するメリット

調達の自動化には、コスト削減や属人化の解消など、さまざまなメリットがあります。この章では、調達の自動化のメリットを5つ紹介します。

コストを削減できる

調達の自動化は、さまざまな面でコストを削減できます。 承認プロセスが自動化されることで管理者の作業時間が大幅に減少し、業務効率が向上します。 また、データを一元管理することで、情報収集や確認作業の時間短縮が可能です。

在庫管理では、在庫の可視化により適正在庫を維持し、調達コストの欠品リスクを抑えられます。

ヒューマンエラーが解消される

手作業による調達業務では、データ入力ミスや書類の紛失といった人為的なエラーが発生していました。しかし、 調達の自動化により、データ入力や承認プロセスがデジタル化されることで、人為的ミスを大幅に削減できます。これにより、業務の正確性と効率性が向上します。

属人化を解消し、業務を効率化できる

製造業では、特定の担当者にしか分からない業務手順や情報が多く、担当者不在時の業務停滞が深刻な課題でした。

調達業務を自動化すれば、データの一元管理により、支出状況やサプライヤー取引などの業務情報が可視化され、誰でも必要な情報にアクセスできます。

結果、戦略的な業務に注力できるようになり、業務効率化が実現できます。

付加価値の高い業務へ集中できる

調達の自動化により、発注書作成、納期確認、請求書照合といった定型的な業務が効率化・自動化されます。これにより、調達担当者は、これまで単純作業に費やしていた時間を削減し、より高度で戦略的な業務に集中できるようになります。

具体的には、市場動向の分析、サプライヤー戦略の立案・実行、リスク管理の強化、社内他部門との連携強化など、企業の競争力向上に直接貢献する活動に注力することが可能になります。

客観的な評価基準で人事評価を改善できる

調達の自動化システムを導入することで、調達活動に関するデータがシステムに蓄積・可視化されます。これらの定量的なデータに基づき、個々の担当者のパフォーマンスや貢献度を客観的かつ公平に評価することが可能になります。

これにより、人事評価の透明性が向上し、担当者のモチベーション向上や、戦略的な業務への貢献といった、これまで評価しづらかった側面の適切な評価につながります。

調達の自動化のための実践的な10ステップ

製造業における調達業務は、発注書の処理、承認の追跡、サプライヤーの管理などに膨大な時間を費やしています。この章では、調達の自動化を実現するための具体的なステップを紹介します。

STEP1.現在のプロセスを評価する

現在のプロセスを評価する段階では、まず要求から支払いまでの調達業務全体のワークフローを包括的に把握することが重要です。 次に、業務フローの中から問題点やボトルネックを特定し、どの領域で自動化が効果的に機能するかを見極めます。さらに、モバイル承認や支出分析といった具体的な機能が、自動化システムに必要不可欠かを明確にしましょう。

STEP2.ROIや必要予算を明らかにする

調達の自動化では、具体的な数値に基づくビジネスケースの構築が不可欠です。自動化導入後の作業時間短縮による人件費削減や在庫最適化によるコスト削減など、具体的な数値を用いて予測します。

導入前と比べた削減効果とシステム導入や運用にかかる費用を比較することで、投資対効果（ROI）を算出できます。

また、自動化がもたらすメリットも明確に提示しましょう。例えば、支出状況の可視化による戦略的な調達判断の実現、コンプライアンス順守の強化、サプライヤーとの関係性向上によるパフォーマンスの改善などが挙げられます。

これらの定量的・定性的なメリットを経営陣に提示することで、調達の自動化プロジェクトへの理解と支援を得ることができ、必要な予算を確保できます。

STEP3.システムを選定する

調達の自動化に適切なテクノロジーパートナーを選定する際は、さまざまな観点からの慎重な評価が必要です。自社の製造プロセスや業務フローに適合する調達の自動化プラットフォームであるかを確認します。 評価の際は、システムの使いやすさ、他システムとの統合機能、将来的な拡張性など、複数の要素を総合的に検討しましょう。

また、選定するベンダーは、製造業の調達業務に関する深い専門知識と豊富な導入実績を持っていることが重要です。さらに、自社の調達課題に対する的確なアドバイスやベストプラクティスを提案できるパートナーを選ぶことで、より効果的な調達の自動化を実現できます。

STEP4.データを整理・整備する

データのクリーンアップと標準化に向けた第一歩として、サプライヤー情報や品目のマスターデータについて、徹底的な監査を実施しましょう。 その上で、データの一貫性を確保するため、明確な命名規則とデータ階層構造を確立します。

さらに、新しいシステムへの移行に先立ち、既存データの洗い出しとクリーンアップを行い、データの品質を強化します。このように段階的なアプローチでデータの整備を進めることで、新システムへのスムーズな移行と、導入後の効果的な運用が可能です。

STEP5.システムの設定とカスタマイズを行う

調達の自動化システムの設定とカスタマイズでは、まずテクノロジーパートナーと密接に連携し、システム内の調達プロセスのマッピングを実施します。 その過程で、承認ワークフロー、支出しきい値、ビジネスルールなどの基本的な運用ルールを明確に定義しましょう。

また、企業固有の業務要件に合わせて、ユーザーインターフェースやレポートの調整も行います。これらの設定とカスタマイズは一度に全てを行うのではなく、段階的なアプローチを取り入れることが重要です。

具体的には、最初に重要度の高いプロセスに焦点を当て、その後、時間をかけて対象範囲を徐々に拡張します。このように計画的なアプローチにより、確実な導入と運用を実現できます。

STEP6.他のシステムと統合する

調達の自動化システムを効果的に運用するためには、既存のERP、MRP、PLMとの連携が不可欠です。この連携においては、リアルタイムでのデータ同期を実現することで、データの精度を高め、手作業によるデータ入力を最小限に抑えられます。なお、システム統合の実施にあたっては、本稼働前に徹底的なテストと検証を行い、確実な運用を実現しましょう。

STEP7.システムの操作を習熟させる

調達の自動化システムを効果的に運用するためには、チームの訓練が不可欠です。まず、調達に関わる全てのスタッフを対象とした包括的なトレーニングプログラムを開発します。このプログラムでは、実践的なワークショップやシミュレーションを通じて、システムの操作スキルと業務知識の習熟度を高めていきます。

また、日常的な業務サポートのため、クイックリファレンスガイドやビデオチュートリアルなどの学習ツールを作成し、スタッフがいつでも必要な情報にアクセスできる環境を整備しましょう。

さらに、チーム内でシステムに精通したメンバーをパワーユーザーとして選任し、他のメンバーへの指導役を担当してもらいます。これにより、ピアツーピアでの実践的なトレーニングが可能となり、チーム全体のスキル向上を効率的に進められるでしょう。

STEP8.試験的に導入する

パイロットと改良の段階では、選定されたユーザーとサプライヤーを対象としたパイロット運用を実施します。 パイロット期間中、ユーザーからのフィードバックを丁寧に収集しながら、業務の効率性や正確性などの指標を継続的にモニタリングします。

こうした情報を基に、システムの問題点や改善点を特定していくのです。全社展開の前には、パイロット運用から得られた知見をもとにシステムの改良と最適化を繰り返し行いましょう。

STEP9.社内調整をする

ライブ配信とコミュニケーションの段階では、システムの本格稼働に向けて、包括的なコミュニケーション戦略を展開することが重要です。まずは、社内の調達部門や関連部署、取引先などの社内外関係者に向けて、明確な稼働開始計画を策定し共有します。

その際、新しい自動化システムがもたらす業務効率の向上やコスト削減といった具体的なメリット、さらには関係者に期待される役割を分かりやすく説明しましょう。

各部門や担当者に自動化システムのメリットを提示することで、スムーズな導入と運用が可能になります。

STEP10.PDCAを回し改善していく

監視、測定、最適化の段階では、まず調達パフォーマンスを評価するためのKPIを確立します。具体的には、サイクルタイム、管理下での支出、サプライヤーのコンプライアンスなどの指標を設定し、継続的に追跡します。

また、システムから得られるデータやユーザーからのフィードバックを定期的にレビューすることで、業務プロセスの改善を行いましょう。 さらに、収集したデータに対して高度な分析を実施することで、戦略的な調達判断を可能にし、サプライヤーとの関係性を最適化します。

以上のロードマップを実践することで、調達の自動化への移行をスムーズに進めることができます。導入に向けた準備は一見すると大変な作業に思えるかもしれませんが、効率の向上とコスト削減、サプライヤーとの連携、リスク管理の改善などのメリットが得られるため、取り組む価値は十分にあります。重要なのは、この取り組みを単なる技術プロジェクトではなく、戦略的取り組みとしてアプローチし、段階的に進めていくことが成功の近道です。

調達の自動化に役立つシステム

シームレスな調達の自動化を実現するには、購入プロセス全体を合理化する統合ツールが必要です。この章では、調達の自動化に不可欠な4つの主要なソフトウェアを紹介します。

電子調達システム

電子調達システムは調達の自動化の基礎となるソリューションです。 このシステムは調達プロセスをデジタル化し、以下のような機能・特徴があります。

• 購買依頼の電子化と一元管理ができる
• 承認ワークフローを自動化できる
• 発注書管理ができる

代表的なソリューションとして、SAP Ariba、Coupa、Jaggaer などがあります。

調達インテリジェンスツール

調達インテリジェントツールは、企業の調達活動を支援するソリューションです。 このツールは以下のような機能・特徴があります。

• 支出パターンの可視化と分析ができる
• コスト削減が必要な箇所を特定できる
• 調達戦略の最適化ができる

代表的なソリューションとしては、CADDi Quote、Sievo、SpendHQ、GEP SMART などがあります。

サプライヤー関係管理（SRM）プラットフォーム

サプライヤー関係管理 （SRM） プラットフォームは、取引先との関係性を管理・最適化するためのソリューションです。このプラットフォームは以下のような機能・特徴があります。

• サプライヤーのオンボーディング管理を行える
• パフォーマンスの評価と追跡ができる
• リアルタイムのコミュニケーションが取れる

代表的なソリューションとしては、Salesforce、Oracle、Zycus などがあります。

契約管理ソフトウェア

契約管理ソフトウェアは、調達に関連する契約業務全般をデジタル化し、効率的に管理するためのソリューションです。このソフトウェアは以下のような機能・特徴があります。

• 調達契約の作成と管理の自動化ができる
• コンプライアンスを順守できる

代表的なソリューションには、Icertis、ContractWorks、Agiloft などがあります。

調達自動化システムの導入効果を高めるポイント

ここからは、システム統合において効率的なビジネス フローを設計するための重要なポイントを解説します。

データを正確に同期する

調達自動化システムを効果的に運用するためには、すべてのシステムで最新の情報が正しく共有・同期されていることを確認してください。

具体的には、仕入先や品目レコードなどのマスター データに加え、注文書や請求書などの取引データも含まれます。明確なデータ ガバナンス ポリシーを確立して、システム全体でデータの正確性と一貫性を維持する仕組みを構築します。

標準化されたデータ形式や通信プロトコルを採用する

システム間の連携をスムーズに行うために、標準化されたデータ形式や通信プロトコル（XML、JSON、REST API など）を採用することが重要です。

これにより、システム間のシームレスな統合を促進したり、ニーズの変化に応じて新しいツールをプラグインすることが容易になったりと、互換性の問題が軽減されます。

調達業務を効率化した企業事例

調達の自動化への取り組みは、製造業において着実に成果を上げています。従来の手作業中心の調達プロセスから脱却し、デジタル技術を活用した効率的な調達体制を構築した企業では、どのような変化が生まれているのでしょうか。

ここでは、調達業務の課題解決に向けてシステムを導入し、具体的な成果を実現した企業の事例をご紹介します。属人化の解消、業務効率の向上、そして調達部門の戦略的価値向上まで、調達の自動化がもたらす多面的な効果をご確認いただけます。

属人化解消と見積業務効率化を実現｜株式会社アルファーシステムズ様

自動化システムの提案・企画設計・製造を手がける株式会社アルファーシステムズでは、紙ベースでの図面管理と個別メール対応による調達業務の非効率性に課題を抱えていました。材質ごとにフォルダを作成し、図面を印刷して手動管理する作業は進捗確認に手間がかかり、担当者不在時の対応も困難な状況でした。特に原材料費や人件費の高騰により、価格の妥当性判断もより困難になっていたのです。

同社では「CADDi Quote」を導入し、一括での見積依頼と進捗管理を実現しました。ダッシュボードで一目で状況確認ができるようになり、催促のタイミングも明確化されました。複数の担当者が同じ情報を共有できるようになったことで属人化が解消され、過去の見積もり履歴もワンクリックで確認できるようになっています。この結果、サプライヤーからの回答率も向上し、発注までのリードタイムの短縮と業務効率の大幅な向上を実現しました。

導入後の主な成果

• 属人化解消：複数担当者での情報共有体制を構築
• 進捗管理効率化：ダッシュボードでの一元管理を実現
• 履歴参照時間短縮：過去見積のワンクリック確認が可能
• リードタイム短縮：見積回答率向上により発注プロセスを加速

参考：株式会社アルファーシステムズ様｜製造業AIデータプラットフォームCADDi

若手活躍と業務効率化を推進｜ハカルプラス株式会社様

創業100年以上の歴史を持つ測定器・理化学機械器具メーカーのハカルプラス株式会社では、4つの事業部それぞれで必要な専門知識が異なるため、ベテランに業務が集中し属人化が顕著でした。また、図面を確認する際には設計に確認する必要があり、調達システムと図面管理システムが分離していることで非効率な状況が続いていました。

「CADDi Quote」のAIアシスト機能を活用することで、若手でも高い精度のサプライヤー選定が可能になりました。従来はベテランでも10～15分かかっていたサプライヤー選定が、AIアシスト機能により数分で判断できるようになっています。また、設計と調達のコミュニケーション改善により、調達部品の手配状況を設計からも確認できるようになり、手配漏れのリスクを大幅に低減しました。利用状況レポートによる定量的評価も可能となり、感覚に依存しない客観的な業務評価を実現しています。

導入後の主な成果

• 属人化解消：若手でも高精度なサプライヤー選定が可能
• 業務効率化：サプライヤー選定時間を10～15分から数分に短縮
• コミュニケーション改善：設計・調達間での情報共有を強化
• 定量評価実現：利用状況レポートによる客観的業務評価

参考：ハカルプラス株式会社様｜製造業AIデータプラットフォームCADDi

調達の自動化で注意すべき点

調達の自動化は、業務効率化やコスト削減など多くのメリットをもたらしますが、導入にあたってはいくつかの注意点があります。

目的が「自動化すること」になっていないか

調達の自動化はあくまで課題解決のための「手段」です。「自動化すること」自体が目的にならないよう注意が必要です。

「納期遅延を防ぎたい」「原価を可視化したい」など、何のために自動化するのか、具体的な課題と目指す姿（KPI）を明確に定義しましょう。目的が曖昧だと、最適なツール選定ができず、導入効果も不明確になりがちです。自動化の範囲も併せて定義することが大切です。

サプライヤー側の対応を見落としていないか

調達の自動化はサプライヤーとの連携も伴います。自動発注や電子契約などを導入する際、サプライヤー側のIT環境や業務体制への影響を考慮する必要があります。

サプライヤーによっては、新しいシステムへの対応が難しい場合もあります。主要取引先とは事前に十分なすり合わせを行い、変更内容や協力体制について調整しておくことが、スムーズな移行と効果的な運用には不可欠です。

まとめ

製造業における調達の自動化は、単なる業務効率化を超えた戦略的変革を実現する重要な取り組みです。従来の手作業中心のプロセスから脱却し、AI技術とデータ活用により、コスト削減、属人化解消、意思決定の迅速化を同時に実現できます。

成功の鍵は、明確な目的設定と段階的なアプローチにあります。現状分析から始まり、適切なツール選定、データ標準化、システム統合、チーム訓練に至る体系的な導入プロセスを経ることで、確実な成果を積み重ねることができます。特に重要なのは、調達チームが戦略的価値を発揮できる環境を整備し、単なる「部品調達」から「経営貢献」へと役割を転換することです。

多くの企業が既に調達の自動化による変革を実現しており、属人化解消、業務効率化、コスト最適化などの具体的な成果を上げています。調達部門が営業・設計をリードする重要なポジションとして機能し、企業の競争力強化に直接貢献する事例も増加しています。調達の自動化は、これからの製造業の競争力を左右する重要な戦略的投資として位置づけるべき取り組みです。