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【CES2026レポート④製造業全般】製造業テーマ新設で鮮明になった「デジタルツイン」の具体化と、社会実装が始まるAIの実像

イベントレポート

【CES2026レポート④製造業全般】製造業テーマ新設で鮮明になった「デジタルツイン」の具体化と、社会実装が始まるAIの実像

【CES2026レポート④製造業全般】製造業テーマ新設で鮮明になった「デジタルツイン」の具体化と、社会実装が始まるAIの実像

1月6日から9日まで、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジーイベント「CES2026」では、産業・製造関連の展示も多くあった。カンファレンストラックには新たに「Manufacturing」のテーマが今年から加わった。さらにLVCC(Las Vegas Convention Center)中央ホールにはCES主催団体のCTA(Consumer Technology Association)と製造業向けの専門団体SME(Society of Manufacturing Engineers)による「Advanced Manufacturing Showcase」が設けられ、オートメーション、先端材料、産業ソフト関連企業が出展を行った。

目次

デジタルツインを基盤にエージェントAI・フィジカルAIが融合

製造現場ではここ数年、デジタルツインの導入が進み、そこへ生成AIを組み合わせる動きが加速している。これによりデジタルツインは、従来の「監視・最適化」中心のツールから、「創造性や新たな設計・シナリオ生成」を支える基盤へと進化しつつある。CES2026ではこの枠組みにエージェントAIとフィジカルAIを組み込んだソリューションが登場。エージェントAIによる自律的な生産オーケストレーションや、フィジカルAIを用いた自律型製造ロボット制御の商用展開が今年中に本格化する予兆が示された。製造現場でも高度なAI処理基盤は今や不可欠であり、その中核プレイヤーとしてNVIDIAの存在感が一段と際立っていた。

NVIDIAはシーメンスと「Industrial AI Operating System」を共同で構築する構想を公表。これは産業分野全体を貫くAI基盤をOSとして共通レイヤー化し、設計から製造、運用、サプライチェーンまで一体で最適化する構想である。

NVIDIAとシーメンスとのIndustrial AI Operating Systemのデモ

NVIDIAの展示では実際に、シーメンスの『Digital Twin Composer』を中核に、PepsiCoの工場や倉庫ライン全体を高精度な3Dデジタルツインとして再現し、NVIDIA『Omniverse』上で動かすデモを披露。コンベアやパレットルート、ストレージ、作業者の動線まで含め製造・物流ラインが一望できる形でモデリングされており、これらにリアルタイムの現場データをひも付け「仮想側での運転」と「現実のライン」の状態を同期させることが可能だ。この事例では物理的なレイアウト変更前に、最大90%の問題を事前検知できたとされる。

またフィジカルAI関連では、ドローンで取得した実世界の3DデータをNVIDIAの『Omniverse NuRec』や『fVDB』ライブラリを使って大規模な仮想環境へ再構成し、物理AIの学習用ワールドとして利用するコンセプトも紹介された。生成された都市スケールのデジタル環境は、自動運転車やドローンだけでなく、広大なプラント・物流拠点・屋外設備を含む製造インフラのシミュレーションにも応用可能だ。センサーデータに基づく経路計画、安全検証、保守計画などを事前に検証できる。こうした「実世界からの自動ワールド生成」が、工場・サプライチェーンを含む次世代インダストリアル・デジタルツインの土台になっていくと考えられる。

ドローンの3Dデータをバーチャル空間で再構築

NVIDIAの製造業に関連するAIソリューション展示では、ロボット分野への応用デモが行われた。ロボット用の学習フレームワークである『Isaac Lab』と、『Omniverse』上に構築した生産ラインのデジタルツイン環境で、アームロボットがピッキングや搬送タスクをこなし、その学習・評価プロセスを可視化。フィジカルAI向けの現実世界シミュレーション用AI基盤『Cosmos』から生成される大量の生成データを用い、模倣学習や強化学習でロボットポリシーをトレーニングすることで、実機導入前に安全かつ高速にスキル習得を行うことを可能にしていた。

さらに、製造業のスコープからはややはずれるが、フィジカルAIの実例として医療分野向けの産業ロボットも披露された。スイスのLEM Surgicalが開発する脊椎手術支援システムは、協働ロボットアームに自社開発の手術支援システム『Dynamis』とNVIDIA『Isaac for Healthcare』などの画像認識・経路計画アルゴリズムのAIスタックを組み込んだ。

術前に撮影したCT・MRI画像や術者が作成した手術計画を取り込み、AIが最適なスクリュー挿入角度や進入ルートを算出する。ロボットアームはその結果を受け、安全な力加減と精密な軌道制御で骨ねじの挿入位置をガイドし、器具の位置決めも自動補正することができる。人間の外科医はモニター上で軌道を確認しつつ意思決定に集中し、実際のポジショニングや繰り返し作業はフィジカルAIを備えたロボットが担う、という役割分担が可能になる。

LEM SurgicalのフィジカルAIの応用例

デジタルツインとAIによる製造改革

シーメンスは、CES2026基調講演にローランド・ブッシュCEOが登壇し、「AIは前世紀で言えば電気に匹敵する汎用技術だ」と位置づけた上で、「製造やインフラを劇的に変える産業用AIの革命が起きる」と予測した。さらに、産業用AIを現実世界でスケールさせるためには適切なパートナーとの連携が不可欠であると説明し、NVIDIAとはGPUやデジタルツインで、マイクロソフトとはクラウド、カスタムAIモデル、Copilotで、ARMとは自動運転向けIPでそれぞれ提携を強化。ここに、50年以上産業AIに取り組んでいるシーメンスの知見を合わせることで、設計から製造まで一連の変革を加速させると語った。

同社ブースでは、『Xcelerator Marketplace』を紹介。これは、製造業を含む産業分野のデジタルトランスフォーメーションをより簡単に、速く、大規模に進めることを支援しているオープンなデジタルビジネスプラットフォーム『Xcelerator』上に、デジタルツインやエンジニアソフト群を含めたサービスだ。CESでは、ここに『Digital Twin Composer』を追加し、NVIDIA『Omniverse』との連携で工場やサプライチェーンの3Dデジタルツインを構築できることも発表。すなわち、「Industrial AI」時代の中核プラットフォームとして再定義したのである。

シーメンス『Xcelerator Marketplace』

なお、シーメンスは移動型ショールーム『eXplore tour』も初公開した。これは、18輪のトレーラー型モバイル・エクスペリエンスを提供するものであり、2026年中に米国内各地を巡回する予定だ。AI駆動のスマートファクトリー体験が可能なショールームで、主要展示会、大学・政府機関、顧客工場などを回るという。

新規顧客の取り込みはもちろんだが、顧客の敷地や地域コミュニティに直接向かうことで産業用AIやデジタルツインの具体例を、デモによりイメージしてもらうことが大きな狙いだ。内部には中央にロボットセルや制御キャビネットが配置されているほか、PLC・産業PC・産業ネットワークとデジタルツインやAI解析を連動させ、側面の大型ディスプレイにデータ投影することで産業用AIの理解度を深めたりできるほか、その場でコンサルティングが行えるスペースも備える。

シーメンス『eXplore tour』

シーメンス『eXplore tour』内部

QNX社は、ブースで同社のリアルタイムOS『QNX OS 8.0』と開発環境『QNX Software Development Platform 8.0(QNX SDP 8.0)』を組み合わせたデジタル工場のシミュレーションをデモ。ロボットアームはAIビジョンカメラを搭載し、テーブル上のキューブをピッキングして所定位置に置く。カメラで取得した画像をもとにキューブの位置や姿勢をAIがリアルタイムに認識し、その結果をQNX RTOS上の制御アプリがミリ秒オーダーでロボット軌道に反映させる構成だ。実機のアームと同期したデジタルツインによる3Dシミュレーションも表示できる。フィジカルAIまでいかなくとも、すでに工場の自動化はここまでのレベルで実用化されているという。

QNX デジタル工場

日立は、エージェントAIを含む高度なAI機能を備えた「HMAX」を発表した。これは、知覚AI・生成AI・エージェントAI・フィジカルAIを統合した産業向けAIスイートである。工場分野向けのHMAXでは、設備データを取り込み、故障の原因と推奨対策をおおむね10秒以内に提示。90%を超える精度で異常要因を特定したり、現場のオペレーション&メンテナンス担当者に対し設備状態に応じて対話形式で手順をガイドするといったエージェントAIサービスを提供。また、鉄道インフラ監視やエネルギー最適化、工場O&M支援といった領域では、HMAXが現場の状態を常時監視し、予知保全や運行最適化、設備条件の自動調整など、意思決定から一部の実行までを担う現場向けのAIソリューションとして利用可能だ。

日立『HMAX』

Advanced Manufacturing Showcaseとは

今回新設された「Advanced Manufacturing Showcase」は、これまでコンシューマ寄りだったCESを製造・インフラを含めた総合テックショーへ広げるための試みといえる。EVや自動運転、ロボティクスなどのCESの花形分野は、いずれも高度な生産技術やサプライチェーン改革を前提としており、設計・加工・検査まで含めたモノづくりのDXをまとめて見せる場が必要になっていた。一方でAIがソフトウェアの枠を超え、エージェントAIやフィジカルAIとして実世界の設備・ロボットと結び付いていくなかで、CESではこうした潮流を「Advanced Manufacturing Showcase」に集約し、フィジカルAI時代のモノづくり基盤を一望できる場として打ち出そうとしているといえる

Advanced Manufacturing Showcase

出展企業は約10社と少なかったが、ブースによっては来客との長い商談や技術的な議論が行われるなど、内容の濃いエリアであった。その中からいくつかの企業を紹介する。

EOS GmbH(Electro Optical Systems)は、産業用の3Dプリンティングソリューションを紹介した。20種以上の金属合金・多数の樹脂材料と、70以上の認証プロセスを揃えた幅広いポートフォリオをもつ。またFDR(超高精細ポリマー造形)や金属向けSmart Fusion(リアルタイム熱管理でサポート材を削減)などの独自技術も開発。高温・高圧・耐薬品など、特殊用途にも対応できる。さらに、自社で開発したプリンターや材料、システム販売のほか、設計図に基づいて発注を受け最適なサードパーティーを紹介するマッチングも行う。試作だけでなく量産・サプライチェーン再構築までを視野に入れることも可能だ。

EOS GmbH

Lumafieldは、AI搭載・産業用X線CT検査ソリューションを展示した。バッテリーサプライチェーン向けに採用されており、リチウムイオンセルを高速CTスキャンして、内部のタブ溶接不良、異物混入などをAIが画像認識、自動検出・評価を行う。調達から量産ライン、不具合解析まで一貫した品質管理を可能にする。他の業種での応用も可能だ。CT検査のハードウェアからクラウドベースの3D可視化、CTデータからの自動寸法計測機能、電池専用AI解析ワークフローまでをワンストップで提供している。

Lumafield

日立グループのJR Automationは「A smarter way to automate」をテーマに、倉庫・工場向けスマートマニュファクチャリングのシステムインテグレーションを紹介。物流オペレーションをデジタルツイン上で再現し、日立のHMAXなどフィジカルAIと連携させ「事前コンサルティング+設計・構築+データ駆動の最適化・保守」までを一体で提供。エージェントAIによる倉庫レイアウトや搬送ルートの自動最適化、設備状態に応じた予防保全なども可能である。

JR Automation

Orases は、企業向けのエージェントAIの導入コンサルティング・開発サービスを紹介。業務プロセスの棚卸しやユースケース選定、AI エージェント設計、既存システム連携、運用改善までを一気通貫で支援する枠組みを提示し、特定製品に縛られない中立的な立場で複数クラウド・複数モデルを組み合わせられる点を、他社との差別化要素として打ち出している。

Orases

Terragrit は、工場や倉庫などの物理空間をノーコードでデジタル化し、AIで新技術導入やレイアウト変更の効果をシミュレーションするプラットフォームを提供する。 既存ラインに新しい自動化機器やAIソリューションを加えた場合のスループットや、KPIへの影響をバーチャルパイロットとして検証できる点が特徴で、設定変更ごとにAIが自動でKPI予測を更新する仕組みを備える。 インテグレーターや設備メーカーと競合しない中立的な試験場として、複数ベンダー構成を同一環境で比較し、導入前にリスクとリターンを定量評価することも可能だ。

Terragrit

AIが自律的に物理世界を動かす「産業OS」となるモノづくりの未来

今年のCESでは、製造業向けテーマが新設され、エージェントAIとフィジカルAIによる変革が鮮明となった。NVIDIAとシーメンスは「産業用AI OS」を掲げ、デジタルツイン上での自律的な工場運用やロボット学習を披露。日立も高度なAIスイート「HMAX」を発表した。

各社の展示の核心は、AIが単なる作業監視用ツールから、自律的に判断し現実世界を動かす主体へと進化した点にある。医療や物流への応用も広がり、設計から保守まで全工程をAIが最適化する「製造オーケストレーション」の商用化が本格化した。フィジカルとデジタルが高度に融合する、次世代のモノづくり基盤が提示されたイベントだったといえよう。

さらに、今回提示されたのは、AIが単なる「予測の道具」を超え、物理世界を自律的に動かす「産業・製造OS」へと進化した姿だ。設計からサプライチェーンまでを一気通貫で最適化する世界は、もはや遠い未来の話ではない。かつて電力が産業を一変させたように、AIの社会実装は製造業を「作業の場」から「価値創造の場」へと再定義していくはずだ。CES2026の製造関連の展示は、自律と共生の先に次世代の産業革命が到来することを確信させる、モノづくりの未来図を感じさせる内容であった。

(取材・執筆:P.P. Communications)

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キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げ、製造業AIデータプラットフォームCADDi を提供しています。 このミッションを全世界で実現するための活動の一環として、2026年1月5日〜9日にラスベガスで開催された「CES2026」にもブースを出展いたしました。

本シリーズでは、出展に合わせて現地で視察した「製造業を変革するために不可欠な最先端テクノロジー」や「最新のトレンド」について、全6回にわたりお届けします。

P.P. Communications

AuthorP.P. Communications

年間を通して海外展示会を取材。レポートの発行・提供の他、そこで蓄積されたIT/ICT業界への深い知識と技術力を強みに、マーケティング・コミュニケーション領域の企画、調査や分析に裏付けられた的確な戦略立案、そして実施フェーズにおける支援を行っています。

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