直接調達とは何か？課題や解決策を解説

直接調達とは？

自動車メーカーで例えましょう。車両を構成する鉄鋼、アルミ、タイヤ、電子部品などの部品はすべて直接調達しています。適切に管理された直接調達プロセスがなければ、組立ラインが停止してしまい、同社は自動車を生産できなくなります。

直接調達は通常、次のような複数の手順のプロセスに従います。

• 要件の特定：どのような資材が、いつ、どのくらいの量で必要になるかを決定する
• サプライヤーの選択：品質、価格、信頼性、その他の基準に基づいて適切なベンダーを選択する
• 交渉条件：価格、納期、支払い条件、その他の契約詳細についての合意を取り、社内の承認を得る
• 注文：正式に商品をリクエストし、支払いを承認する
• パフォーマンスの監視：納品、品質、契約条件の遵守を追跡する

直接調達の主な成果には、発注書、商品の受領、請求書の支払いが含まれます。

直接調達と間接調達を区別することが重要です。間接調達とは、事務用品、通信サービス、清掃サービスなど、企業の運営をサポートするものの製品には含まれない商品やサービスの購入を指します。

高品質でコスト効率の高い材料を生産プロセスに安定的に供給するには、効果的な直接調達が不可欠です。それは、収益性の高い事業とサプライチェーンの絶え間ない悩みとの間に違いを生む可能性があります。

直接調達でよくある課題・注意点と解決策

直接調達の管理は簡単なことではありません。製品の製造に必要な材料を購入するだけで簡単に思えるかもしれませんが、実際には多岐にわたる複雑な課題がプロセスを困難にしています。しかし、適切な戦略とツールを活用することで、これらの課題を効果的に解決することが可能です。

サプライチェーンに混乱が生じやすい

ブロックを1つ取り除くとタワー全体が倒れるジェンガゲームを想像してみてください。直接調達では、自然災害、労働ストライキ、輸送遅延など、サプライチェーンのどこかで混乱が発生すると、生産が停止する波及効果が生じる可能性があります。特に単一のサプライヤーに依存している場合、その影響は企業全体の操業に及びます。

この課題を解決するには、サプライヤーの多様化と統合の適切なバランスが重要です。複数のサプライヤーから調達することで混乱や価格変動の影響を軽減する一方で、少数の主要パートナーとの戦略的関係に焦点を当てることで規模の経済性を向上させます。定期的なリスク評価の実施と緊急時対応計画の策定により、混乱への迅速な対応体制を構築できます。

原材料の品質管理が難しい

材料の一貫した品質を確保することは非常に重要ですが、言うは易く行うは難しです。サプライヤーによって品質基準にばらつきが生じたり、意図せず仕様を満たさない部品が納品されたりする可能性があります。製品の欠陥やリコールにつながる前に品質上の問題を発見するには、厳格な検査とテストが必要です。

効果的な対策として、サプライヤー関係管理（SRM）プログラムの導入により、主要なサプライヤーと強力な協力関係を築くことが重要です。定期的なコミュニケーション、共同の問題解決、業績へのインセンティブを含む包括的な品質管理体制を構築し、トヨタの「トヨタウェイ」のように、継続的な改善を推進するためのパートナーシップを強化します。

価格変動のコントロール・対策が難しい

原材料の価格は、市況、為替レート、地政学的な出来事に基づいて大きく変動する可能性があります。コストが常に足元で変化している場合、予算編成と予測は困難になります。特に長期契約を結ぶ際には、この価格変動リスクが企業の収益性に深刻な影響を与える可能性があります。

この課題への対応には、調達インテリジェンスを活用したデータ分析と市場調査により価格設定の傾向を把握することが有効です。戦略的な調達アプローチにより、短期的なコスト削減だけでなく総合的かつ長期的な視点で調達戦略を策定し、支出データ、市場動向、サプライヤーの能力を分析してコスト、品質、リスクのバランスを最適化します。

サプライヤー関係管理が複雑になりがちである

信頼性の高い高品質の供給を確保するには、サプライヤーとの強力な関係を維持することが重要です。しかし、それには注意点があります。価格を押し下げすぎると、関係にダメージを与える可能性があります。あまりにも寛大すぎると、過剰な料金を支払ったり、標準以下の材料を受け取ったりする可能性があります。

この複雑な関係性を管理するには、カテゴリ管理の導入により、調達支出を原材料、梱包、輸送などの明確なカテゴリに分割し、各カテゴリに特有の戦略を開発することが効果的です。調達戦略をビジネス目標および市場動向に合わせることで、より大きな価値とイノベーションを推進し、Win-Winの関係構築により長期的なパートナーシップを実現します。

コンプライアンスの遵守とリスク管理が必要である

調達チームは、環境法や労働法から国際貿易協定に至るまで、複雑に絡み合った規制を乗り越えなければなりません。違反した場合は、高額の罰金、風評被害、さらには法的措置につながる可能性があります。特に海外サプライヤーとの取引では、各国の法規制への対応が求められます。

これらのリスクを軽減するためには、持続可能で倫理的な調達慣行の導入が不可欠です。グリーン調達によるリサイクル素材の使用や公正な労働慣行の確保により、コンプライアンスリスクを軽減できます。包括的なリスク管理戦略により、定期的なリスク評価の実施と緊急時対応計画を策定することが重要です。

調達業務が属人化しがちである

経験豊富な調達担当者に業務が集中し、その人のスキルや人脈に依存する状況が生まれやすくなります。担当者が不在になると業務が滞ったり、適切な判断ができなくなったりするリスクがあります。また、ノウハウの共有や継承も困難になります。

属人化を解消するためには、デジタルツールとAI技術の活用による調達プロセスの標準化が有効です。過去の調達データと経験を蓄積・分析し、ベストプラクティスを明文化することで、若手でも高精度な判断ができるよう、AI支援による意思決定システムを構築できます。

データが分散し、活用しきれていない

調達関連の情報が複数のシステムに分散し、統合的な管理ができていない企業が多く見られます。見積もり管理、発注管理、品質管理、コスト管理などが個別のシステムで運用されているため、データの一元化や分析が困難になっています。

この課題への対応策として、統合型の調達管理プラットフォームの導入により、すべての調達プロセスを一元管理することが重要です。見積もりから発注、品質管理、コスト分析まで一貫したデータ管理を実現し、リアルタイムでの進捗確認と分析により、より戦略的な調達判断を可能にします。

リードタイムとコストのバランスを取るのが難しい

短納期での調達を求められる一方で、コスト削減も要求される状況が増えています。急ぎの調達では限られたサプライヤーからの選択となり、価格交渉力が低下したり、品質リスクが高まったりする可能性があります。

このジレンマを解決するためには、共同計画、予測、補充（CPFR）により、データを共有してサプライヤーと協力し、予測精度を向上させることが効果的です。協力的な需要予測と生産最適化により、在庫切れや過剰在庫のリスクを軽減し、戦略的な在庫管理とサプライヤーとの長期パートナーシップにより、リードタイムとコストの最適バランスを実現します。

これらの解決策を総合的に実装することで、効果的な直接調達は重要な競争上の優位性となり、コスト削減、イノベーション、顧客満足度を促進します。人材、プロセス、テクノロジーを組み合わせたホリスティックなアプローチが成功の鍵となります。

調達業務を効率化した企業事例

直接調達の課題は理論的に理解できても、実際の改善効果がどの程度期待できるのか疑問に思う方も多いでしょう。しかし、すでに多くの製造業企業が直接調達プロセスの改革に取り組み、具体的な成果を実現しています。

ここでは、直接調達における課題解決に向けてデジタル技術を活用し、業務変革を実現した企業の事例をご紹介します。属人化の解消、サプライヤー選定の効率化、そして調達プロセス全体の最適化まで、直接調達の改善がもたらす実際の効果をご確認いただけます。

属人化解消と業務効率化を実現｜ハカルプラス株式会社様

産業用計量システムを手がけるハカルプラス株式会社では、4つの事業部それぞれで異なる専門知識が求められるため、ベテランに業務が集中し調達プロセスの属人化が深刻な課題となっていました。図面を確認する際には毎回設計部門に確認する必要があり、サプライヤー選定にも10～15分程度の時間がかかっていたのです。

同社はこれらの課題解決に向けてAI見積クラウド「CADDi Quote」を導入しました。AIアシスト機能が過去の実績やリピート品に関する情報を自動提案することで、経験の浅い若手でも高精度なサプライヤー選定が可能となったのです。さらに、設計と調達のシステム連携により、部品の手配状況をリアルタイムで共有できるようになりました。

この取り組みにより、若手でも数分でサプライヤー選定の判断を下せるようになり、属人化が大幅に解消されました。情報の電子化によってアナログ作業も削減され、調達業務全体の効率化を実現しています。

導入後の主な成果

• 属人化解消：若手でも高精度なサプライヤー選定が可能
• 業務効率化：サプライヤー選定時間を数分に短縮
• コミュニケーション改善：設計と調達の情報共有をリアルタイム化
• アナログ作業削減：紙ベース管理からの完全脱却

参考：ハカルプラス株式会社様｜製造業AIデータプラットフォームCADDi

見積プロセスの一元管理で発注リードタイム短縮｜株式会社アルファーシステムズ様

自動化システムの設計製造を手がける株式会社アルファーシステムズでは、紙とフォルダによる図面管理と個別メール対応による見積プロセスが大きな負担となっていました。材質ごとにフォルダを作成し、図面を印刷して管理するという手作業が多く、進捗確認に手間がかかり、他の業務に追われると見積もりを出していることを忘れてしまうという状況も発生していたのです。

同社は「CADDi Quote」導入により、一括での見積依頼と進捗管理を実現しました。ダッシュボードで一目で状況確認ができるようになり、複数の担当者が同じ情報を共有できる体制を構築。催促のタイミングも明確化され、サプライヤーからの回答率も向上しました。

この取り組みにより、紙ベースの非効率な管理から脱却し、担当者不在時も業務が滞らない体制を実現しました。過去の見積もり履歴もワンクリックで確認できるようになり、発注までのリードタイムが大幅に短縮されています。

導入後の主な成果

• 進捗管理効率化：ダッシュボードで一目での状況確認を実現
• 属人化解消：複数担当者での情報共有体制を構築
• 回答率向上：サプライヤーからの見積回答が早期化
• リードタイム短縮：発注までのプロセスを大幅に効率化

参考：株式会社アルファーシステムズ様｜製造業AIデータプラットフォームCADDi

まとめ

製造業における直接調達は、企業の競争力を左右する重要な要素です。サプライチェーンの複雑化と原材料価格の変動が激しい現代において、従来の手作業による調達プロセスでは限界があります。品質確保とコスト最適化を両立させるためには、戦略的な調達アプローチとデジタル技術の活用が不可欠となっています。

効果的な直接調達の実現には、サプライヤー関係管理の強化、調達プロセスの標準化、そしてデータに基づいた意思決定が重要な鍵となります。特に属人化の解消と業務効率化は、多くの製造業が直面する共通課題であり、AIやデジタルツールの活用によってこれらの課題を根本的に解決することが可能です。

本記事で紹介した導入事例のように、適切なツールと戦略的なアプローチにより、調達業務時間の大幅短縮と品質向上を同時に実現できます。グローバルな競争環境の中で持続的な成長を遂げるためには、直接調達の変革が企業の将来を決定づける重要な投資となるでしょう。