社名
ヤンマーホールディングス株式会社
設立
1912年
従業員数
21,553名(連結)
売上高
1兆814億円(連結)
業界
建設機械・農業用機械
事業内容
アグリ事業、マリン事業、エネルギーシステム事業、建機事業、小型エンジン事業、大型エンジン事業、コンポーネント事業など
ヤンマーホールディングス株式会社

事例 CADDi Drawer

現場と一体となって進める「草の根DX」で目指す、人材の活人化

デジタル戦略推進部 DX推進グループ 課長

世森 達也

デジタル戦略推進部 DX推進グループ

河野 銀

導入前・導入後

蓄積された過去図面やデータを有効活用できずに、コストや工数に関する課題を抱えていた。また、図面検索に時間がかかることで本質的な業務に時間を充てられず、人材育成にも時間が必要なことから属人化が進んでいた。

図面検索に必要な時間を削減することで、生まれた工数を高付加価値業務や育成に充てる活人化が実現できて来た。また、属人化が解消すると共に、モチベーションの高い若手は主体的に改善に取り組む雰囲気ができてきた。

インタビュー

ヤンマーホールディングスにおける「草の根DX」とは

1912年に創業したヤンマーは、1933年に世界初の小型ディーゼルエンジンの実用化に成功。その後は大型エンジン、農業機械、エネルギーシステム、工作機械など多岐に渡る事業を展開する産業機械メーカーだ。2024年現在、グローバルに2万人以上の従業員を抱え、海外100か所以上の拠点を展開している。

 

ヤンマーホールディングスでは、2022年からの中期戦略として策定した6つの戦略課題を掲げている。その中の1つが「DXに対応する次世代経営基盤の構築」であり、その実現をミッションとしてデジタル戦略推進部が組成された。

 

デジタル戦略推進部DX推進グループ課長である世森氏は、このように話す。

「単にトップダウンでデジタルツールを導入するだけでは、効果的なDXは実現できません。そこで我々は、トップの強いコミットメントを元に、『草の根DX』というボトムアップ型のコンセプトで取り組んでいます。草の根DXでは、本当の意味で現場にフィットするデジタル化を実現するために、現場のユーザー自らがリテラシーやスキルを身に付け、デジタルツールを活用できることを目指しています。我々は、横断的なプロジェクトの推進や管理を行いつつ、現場のDX推進と成功事例をグループ全体に共有することを使命としています。」

 

一般的に、DXはトップの強いコミットメントによるトップダウンで進めていくべき、という主張も多い。一方で、様々な事業体を抱えるヤンマーグループでは、個社ごとに課題や課題解決に向けた最適な方法が異なるため、トップダウンでひとくくりにして活動を進めるのは難しい。実際に現場で取り組むメンバーのモチベーションに成果が大きく左右されるため、現場の思いを大事にしながら取り組んでいくことも必要である。トップダウンとボトムアップ。両面からDXに取り組むことが、同社ミッションの実現に向けての重要なファクターだった。

*図1

ヤンマーホールディングスにおける「草の根DX」とは

*図1:ヤンマーにおける草の根DXの考え方

個別最適・サイロ化するシステム群のデータを統合し、目指す「活人化」

不確実性が高く将来の予測が難しいVUCA*時代において、多くの企業が人手不足や為替変動の影響を受けている。そのような状況下でも企業を持続的に成長させるためには、収益の安定化や製品サービスの安定供給が必要だ。

*「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取ったもの

 

ヤンマーでは、限られた時間の中で本質的な業務にシフトすることで、QCD(品質・コスト・納期)や顧客価値の向上を目指している。

 

DX推進グループにおいて実務の中心を担う河野氏は、ヤンマーが抱える課題について、このように話す。

「バリューチェーンの工程では、BOMやPDM、ERP、品質情報管理システムなどがそれぞれ個別最適化されており、サイロ化している状態でした。最適なQCDの実現のためには、サイロ化しているこれらのデータを統合し、次のアクションに繋げていくことが求められています。いわゆるフィードバックループを高速に回すという事です。*図2

 

特に図面に関する領域では、さまざまな課題が生じていました。例えば、製品コストを決める開発の段階で、過去図面やコストの情報を活用しづらい状況にありました。また、類似図面の検索ができなかったため、若手が知識を身に付けにくく、ベテランに業務が偏ってしまうことで属人化が生まれています。

 

限られた工数をより高度な業務にシフトさせていくためには、図面検索にかかる時間の削減や類似した新図の抑制を行い、生み出した時間をうまく活用する『活人化』を実現する必要があります。」

個別最適・サイロ化するシステム群のデータを統合し、目指す「活人化」

*図2:ヤンマーにおいてのデジタル化の本質(ぐるぐるモデル)

業務の効率化は当たり前。時間を削っておしまい、ではなく、そこから生まれた時間を高度な分析やネゴシエーションなど、より本質的で創造的な仕事に時間を使えるようにしていく。そんな「活人化」を実現するためには、これまで現場で行われていた業務のやり方、プロセスを変えていく必要がある。現状からの変更にはネガティブな意見が出やすく、デメリットに目を向けられて活動が頓挫してしまうことも多い。これらの課題を乗り越えて草の根DXを実現するために、絵にかいた餅を見せるだけでなく一緒に取り組んでくれるパートナーを探していた。

ヤンマーにおけるCADDi Drawerの導入検証

CADDi Drawer導入の経緯について、河野氏はこのように話す。

「私はもともと事業会社で開発部に所属しており、製造業において重要なデータである図面を活用できていないという実感を持っていました。例えば、流用が可能な過去図面があるはずなのに、変化点の少ない新図の作成によってさまざまな審査が必要になることがありました。新図を起こすという事は審査のみならずそれに伴うライフサイクルコストがかかるという事です。こういう課題を、CADDi Drawerでなら解消できるかもしれないと考えました。また、導入においてQuick-Winが実現でき、そのための支援体制が整っていることが重要だと考えていたため、導入だけでなく伴走支援もしてくれるキャディの体制は魅力的でした。」

 

ヤンマーは、もともとトップ層のDXに対するコミットメントがあり、実際に取り組む現場のメンバーのモチベーションも高かった。導入検証は、バリューチェーンの上流であり、図面データを扱っている開発・購買・原価といった部門を中心に検証を進めた。各部門からの立候補者に加え、ヤンマーホールディングスの推進者、キャディのカスタマーサクセスが支援を行う体制を構築し、総勢50名ほどの組織となった。定期的なミーティングを開催しながら、KPIやマイルストーンを設定し、「抱えている課題の解消に繋がるか」、「ROIが100%以上でるか」などを検証項目として、CADDi Drawerの導入検証に取り組んだ。

CADDi Drawer導入検証で見えた活人化と若手の変化

ヤンマーでは、約半年間かけて検証を行った。その結果として、原価、購買、開発、品質管理、品質保証の各部門において業務効率化や標準化に十分な活用効果が見込まれるとの結果が出た。検索・選定・査定・情報連携・教育の効率化が進み、図面の標準化や流用設計の推進、コスト意識の向上が期待されている。

 

他にも定性的な効果として挙げられるのは、ベテランの経験が形式知化されたことによる若手のスキル・モチベーション向上。また、図面内のテキストを対象としたキーワード検索や類似検索が多く行われている。特に大きなインパクトを感じているのが、類似検索だ。

 

例えば、原価部門では、コスト見積もりをする際にサイズ違いの類似部品を効率的に探しづらいという課題を抱えていた。CADDi Drawerの類似検索によって、コストと紐づいたサイズ違いの検索が可能となったことで、重量とコストの関係性を分析するようなLPPを短時間で行うことができ、想定するコストと現在のコストのずれの有無、またずれがなぜ発生しているかの検証を効率的に行えるようになった。従来は難しかった分析を行えるようになったことで、本質的な業務に繋がっている。他の部門では、ある部品の長さとコストの関係に関する分析なども行われていたりと、現場からも新たな使い方やポジティブな声が挙がっている。

 

原価部門に限らず、特にモチベーションの高い若手は、省人化によって生み出した時間を分析や本質的な業務に充てる活人化に積極的に取り組めるように変わってきた。さらに、CADDi Drawerに登録した情報が部門間の壁を壊す共通言語になり、メールに添付したハイパーリンクを共有することでコミュニケーションが活性化している。単なる工数削減に留まらず、参加メンバーの意識改革や文化の変革といった効果を実感している。

「DXにテンプレートはない」トップダウンとボトムアップの双方向で実現するヤンマーのDX

ヤンマーでのCADDi Drawer導入検証を通して、部署間の壁を取り払いながら、現場の従業員が主体的に取り組む状況を確認できた。今後は、このベストプラクティスを他の事業へ横展開すると共に、グローバルでのサプライチェーン変革やエンジニアリングチェーンも含め、ひいてはバリューチェーン全体でのQCD最適化に向けて取り組んでいく。これらは、ヤンマーの中期戦略を達成するための重要な取り組みである。

 

DXに取り組む際の考えと今後について、世森氏は最後にこう語った。

「企業それぞれに歴史や文化があるため、どの企業でも成功するDXのテンプレートはありません。これまで取り組んできたアナログのやり方を否定するのではなくリスペクトをしながら、デジタル技術を活用してよりよいものにしていく。その方法を現場のメンバーと一緒に考えていきたいですね。これまでとやり方を変えると一時的に効率は悪化するので、現場のメンバーがネガティブな思いを抱くのは普通のことです。そこで活動が終わってしまわないように、取り組みの目的を理解してもらいながら進めていく必要があります。ヤンマーでは、トップマネジメントの強いコミットメントを元に、組織的なDXの推進を行っています。デジタルにチャレンジしたい社員を発掘して後押しをし、横断的に繋げることで、会社全体のDXに関する取り組みの機運を高めていくことが重要だと考えています。今回の導入検証で得られたものは貴重な財産だと考えており、これを他の事業に横展開することで、グループ全体としての効果の最大化を図っていきたいですね。」

顧客事例一覧に戻る