製造業のIoTとは?工場での導入のメリットや注意点・対策を解説
人手不足や技術継承、生産性向上といった従来からの課題に加え、グローバル競争の激化やカーボンニュートラルへの対応など、製造業を取り巻く環境は一層厳しさを増しています。
このような状況下で注目されているのが「IoT」です。工場内の設備や製品にセンサーを取り付け、データを収集・分析することで、生産性向上から技術継承まで、多岐にわたる課題を同時に解決できる可能性を秘めています。
しかし、IoTの導入は決して容易ではありません。高額な初期投資、人材確保、セキュリティ対策など、検討すべき課題は多くあります。この記事では、製造業におけるIoTの基礎知識から成功のポイントを解説します。
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目次
製造業のIoTとは?
IoTとは、「モノのインターネット」を意味し、あらゆるモノがインターネットを通じて接続され、データをやり取りする仕組みです。
製造業においても、IoTを活用した一例として通信機器や各種センサーで収集したさまざまなデータを分析することで、製造プロセスの改善や異常予兆検知などに役立てられています。
なお、IoTの技術は、ドイツで始まった第四次産業革命「インダストリー4.0」の中核を担うものです。インダストリー4.0では、生産工程のインターネット化により、業務効率化や新しいビジネスモデルの創出を図ります。
スマートファクトリーやDX、FAとの違い
IoTは、あらゆる機器をインターネットで接続してデータをやり取りする技術です。このIoT技術を活用して、「製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)」、「スマートファクトリー」、「FA(ファクトリーオートメーション)」といったさまざまな取り組みが実施されています。
製造業DXは、製造部門だけでなく受注や販売、アフターフォローまでを含めた、企業活動全体のビジネスモデルのデジタル変革を目指す取り組みです。
スマートファクトリーは製造業DXの一部として位置づけられ、製造部門の機械や基幹システムをネットワークで連携させ、データの可視化や生産性向上を図ります。
これに対してFAは、工場内の製造・運搬・管理といったより個別の工程の自動化に焦点を当てた取り組みです。スマートファクトリーやDXと比べて、より限定的な範囲での改善を目指す点が特徴です。
IoT | あらゆる機器をインターネットで接続してデータをやり取りする基盤技術で、DX、スマートファクトリー、FAの基盤となるもの |
DX | 製造部門だけでなく受注や販売、アフターフォローまでを含めた、企業活動全体のビジネスモデルのデジタル変革を目指す取り組み |
スマートファクトリー | 製造業DXの一部として位置づけられ、製造部門に特化したデジタル化の取り組み |
FA | 工場内の製造・運搬・管理といったより個別の工程の自動化に焦点を当てた取り組み |
関連記事:スマートファクトリーとは?メリットや必要な技術、導入手順を解説!|製造業AIデータプラットフォームCADDi
IoTプラットフォームとは
IoTプラットフォームは、製造現場のデータを集積・活用するためのシステム基盤です。生産設備から収集したデータを可視化し、分析・制御を行う機能を持ち、製造業のIoT活用に不可欠な役割を果たします。近年では、従来型のサーバー設置方式に加え、クラウド型の利用も進み、柔軟なシステム構築が可能になっています。
製造業でIoTが注目されている理由
特に少子高齢化による労働力IoTを含めたデジタル技術の活用状況は着実に拡大しています。経済産業省のデータによると、DXに取り組んでいる企業の割合は、2021年の55.8%から2023年には73.7%に増加しており、デジタル技術の企業への浸透が進んでいることを示しています。
製造業におけるIoTは、生産性の向上やセンサーによる24時間モニタリング、技術の継承など、製造業の抱えるさまざまな課題を解決するのに有効です。また、スマートファクトリーの実現の一要素として重要な役目を果たします。
関連記事:スマートファクトリーとは?メリットや必要な技術、導入手順を解説!|製造業AIデータプラットフォームCADDi
※参考:「DX動向2024」経済産業省
製造業におけるIoTのメリット
製造業におけるIoTのメリットは、業務効率化や生産性の向上、システム異常の感知、ノウハウの継承などです。以下では、それぞれの詳細を解説します。
業務効率化ができる
IoTの活用により、現場の課題や改善機会を数値化して「見える化」できるようになります。データに基づいて仮説を立て、検証するサイクルを回せるため、非効率な部分の改善を効果的に進められます。
また、設計や生産情報などを検索性の高いデータプラットフォーム上で一元管理することで、必要な情報を瞬時に検索・活用できるようになり、設計工数や情報共有の工数を大幅に削減できます。業務が効率化されれば、残業時間の削減やコア業務への集中にもつながります。
生産性を向上できる
IoTを活用することで、工場内のさまざまなデータをリアルタイムで収集・分析できるため、生産性を大幅に向上できます。具体的には、生産設備の稼働状況を常時モニタリングし、部品や原材料の在庫状況をデジタル管理することが可能です。
さらに、作業者の動線や工程のボトルネックを可視化することで、生産ラインの無駄な待機時間を削減したり、不良品を軽減できたりと、最適な生産計画を立案できます。AIと組み合わせることで需要予測の精度を高め、適切な生産量の調整も実現できます。
システム異常を感知できる
IoTセンサーにより、製造設備の振動、温度、電流値などのデータをリアルタイムで収集・分析することで、異常の予兆を早期に発見できます。
例えば、通常より大きな振動値の検出や設備の温度上昇の検知、消費電力の急激な変化の把握などが挙げられます。
IoTで収集したデータを分析することで、設備の異常を早期に発見できるため、突発的な設備停止を防ぎ、計画的なメンテナンスが可能です。
さらに、AI技術と組み合わせることで、過去の故障データから将来の故障を予測する「予知保全」も実現でき、ダウンタイムの最小化とメンテナンスコストの最適化が図れます。
技術・ノウハウを継承できる
製造業では、熟練工の技術やノウハウの継承が大きな課題となっています。IoTを活用することで、熟練工の作業動作をセンサーで記録しデータ化したり、作業手順や判断基準のマニュアル化を可能にしたりと、技術やノウハウの継承に貢献します。
また、熟練工の異常検知能力も継承可能です。製造ラインの正常時と異常時のデータを機械学習させることで、ベテランと同等の予兆検知が実現できます。このように、IoTは「暗黙知」とされてきた技能を「形式知」に変換する重要なツールとなっています。
製造業でのIoT導入事例
製造業でのIoTの導入事例を紹介するので、自社での取り組みイメージを掴む上でご参考にしてください。
課題・背景
富士電機大田原工場では、受配電機器のライン生産を行う中で、生産工程における問題点の迅速な把握と対策実施が必要とされていました。
取り組み内容
そこで工場全体の生産情報と経営情報を一元管理するダッシュボードシステムを導入。このシステムでは以下の要素を統合的に可視化しました。
- 品質データ
- 生産進捗状況
- 設備稼働率の推移
- エネルギー使用状況
- 工場内設置カメラによる製造現場のライブ映像
さらに、生産タクトタイムの変動を監視する稼働監視システムを実装。監視カメラの映像データと稼働状況データを組み合わせた分析により、生産工程での具体的な問題箇所を特定できる体制を整備しました。
成果
その結果、例えばネジ締め工程における供給設備の不具合を映像データから特定し、改善を行えるようになるなどの変化が現れ、生産性が5%向上しました。
参考:「操業・稼働・エネルギーの見える化」富士電機
IoT導入時の課題と対策
IoTは製造業の課題を解決する画期的なツールである一方、導入する際の課題が懸念されています。この章ではIoT導入時の課題と対策を解説します。
導入費用が高額である
IoTシステムの導入には、センサーやデバイスの購入、ネットワーク整備、システム構築など、数百万から数千万単位のコストが発生します。特に中小企業にとって、これらの投資は大きな負担となります。
この課題を解決するために、段階的な導入やクラウド型IoTサービスの利用など、コストを抑える工夫が必要です。近年は月額制のIoTサービスも増えており、初期費用を抑えた導入方法も選択できるようになっています。
IoTに知見のある人材の確保が必要である
IoTシステムの導入・運用には、IT技術に精通した人材が必要不可欠です。しかし、このようなIT人材は慢性的に不足しており、採用が困難な状況となっています。
この課題に対しては、IT人材の確保というより、チャレンジ精神のある人材を社内から広く募り、IoT推進のプロジェクトチームを立ち上げることが効果的です。特に製造現場の課題を熟知し、改善への意欲が高い人材は、IoT導入の推進者として大きな力を発揮できます。
また、IoT導入の成功には、デジタルの専門知識よりも、自社の課題を明確に把握し、それを外部の専門家に適切に伝えられるコミュニケーション能力が重要です。社内の各部門からの情報収集力や、IoTベンダーやコンサルタントとの円滑な連携を図れる調整力を持った人材の育成が鍵となります。
このような人材を中心に、必要に応じてIoTコンサルタントなど外部パートナーの専門知識を活用することで、効果的なIoT導入を実現できます。
セキュリティ対策が必要である
IoTデバイスの増加に伴い、サイバー攻撃のリスクも高まっています。製造現場では、生産設備の停止や重要データの漏洩が直接的な損失につながります。通信の暗号化と認証システムを導入したり、社員向けのセキュリティ教育を実施したりといった対策が必要です。
特に製造業では、制御系ネットワークと情報系ネットワークを分離することで、万が一の侵入があっても被害を最小限に抑えられます。
また、トラブル発生時の対応手順を事前に策定し、定期的な訓練を行うことで、迅速な復旧体制を整えることが推奨されます。
正確なデータの取得が難しい
工場の実際の状況とIoTツール上のデータを正確に同期させることは、現状大きな課題となっています。
例えば、工場では多くの作業者が関わりますが、作業者が製造ラインの状況を手入力で報告する際に、入力ミスや入力の遅れが発生することがあります。また、複数の作業者が異なるタイミングで情報を入力すると、データの整合性が取れなくなるケースも見られます。
この点に関しては現状完璧な対策はなく、今後のテクノロジーの進化による解決が期待されます。
製造業でのIoT導入の手順・進め方
製造業でのIoT導入の手順は企業ごとにさまざまですが、以下では一例をご紹介します。
STEP1. 現状の課題を洗い出し、社内での合意形成をする
製造業でIoTを導入する際、まず取り組むべきは現状の課題を具体的に洗い出すことです。単に「生産性を上げたい」といった漠然とした目標ではなく、「特定の工程で不良品が多く発生している」「機械の故障頻度が高く、突発的な停止が多い」「ベテラン作業員のノウハウが継承されにくい」など、現場の具体的な困り事を詳細に把握することが重要です。
課題が明確になったら、次にIoT導入の初期設計を策定します。IoT導入には、システムや設備への初期投資に加え、運用コストも必要です。製造業では各設備のコストが高額になるため、導入計画、期待される改善効果、具体的な数値目標について社内で十分に議論し、合意形成を図りましょう。
これらの事前準備は、次のステップである「データの収集・蓄積」において、どのような情報を、何のために、どれくらいの頻度で集めるべきかを決定する上でも重要な役目を果たします。
STEP2. データの収集・蓄積で情報基盤を構築する
続いて、課題の解決に向けて必要なデータの収集をしていきます。製造現場の必要な場所にカメラやセンサーなどの情報収集デバイスを設置し、データを取得できる状態にしましょう。
また、収集したデータは適切に蓄積・管理することが大切です。クラウド環境を活用すれば、膨大な情報を保管でき、スマートフォンやタブレットからも閲覧可能です。また、リアルタイムでの情報更新により、より正確なデータ収集が可能になります。
ただし、インターネットに接続する以上、不正アクセス対策などのセキュリティ面での配慮も欠かせません。IoT化と並行して、適切なセキュリティ対策も実施しましょう。
STEP3. データ可視化で生産システムを「見える化」する
IoTで収集したデータは、従業員が必要な情報を適切に把握できるよう可視化することが大切です。部署や目的によって必要なデータは異なるため、各部署で可視化するデータは適切な選択が必要です。
例えば、データ活用の一例として、製造部門では製造機器の温度や湿度のデータを常時モニタリングすることで、品質管理の精度を高められます。同様に、搬送部門では配送状況や在庫数のリアルタイムな把握により効率的な物流管理が可能になります。このように、部門ごとに最適なデータの選択と活用方法が異なってきます。
STEP4. データ利活用で生産性の向上を実現する
収集・可視化されたデータは、それ自体がゴールではありません。次の段階として、これらのデータを深く分析し、隠れた課題や改善の機会を発見することが重要です。
例えば、機器の稼働データから故障の予兆を捉え、予知保全によってダウンタイムを削減したり、生産プロセス全体のデータを分析してボトルネックを特定し工程を最適化したりしましょう。
このように、データに基づいた具体的なアクションを実行することで、品質の安定化、コスト削減、そして最終的な生産性の向上といった目に見える成果へとつなげられます。
製造業でのIoT推進におけるポイント
IoT導入の失敗のリスクを抑えるためには、スモールスタートで検証していくことがポイントです。
まずは効果が高く取り組みやすいテーマから実践することで、IoTの有用性を確認できます。例えば、温湿度の自動計測と通知の仕組みを構築し、見回り作業の負担を軽減するといった第一フェーズから始めるのが賢明です。また、装置のデータを自動で収集して日報作成を効率化するなど、作業工数の削減効果が明確な取り組みも有効です。
このように成功事例を積み重ねることで、リスクを減らしつつIoTの活用範囲を広げていけます。
IoT以外に押さえておきたい技術
製造業の業務効率化や生産性向上に役立つ技術はIoTだけではありません。以下のような技術も自社の状況に応じて導入し、スマートファクトリー化を目指すことで、より広範囲にわたる業務を改革できます。
技術 | 概要 |
AI・ビッグデータ | IoTセンサーから収集したデータを分析し、価値ある情報へ変換する技術。
AI学習による高精度な図面検索やデータに基づく最適な発注、品質管理・需要予測の精度向上などに役立てられる。 |
サイバーセキュリティ | 製造設備のネットワーク接続に伴う外部脅威へ対策する技術。
情報漏えいや生産ラインの停止の防止に役立つ。 |
ERP | 製造、販売、在庫、会計など、これまで部門ごとに管理されていた情報を一元管理する技術。
品質管理データや設備の稼働状況なども一元管理できるため、製造現場の課題を早期に発見できる。 |
デジタルツイン | 実際の製造設備から収集したデータをもとに、製造現場の設備や工場全体をデジタル空間上に再現する技術。
あらゆる条件でシミュレーションを行うことで設備の不具合などを事前に発見できる。 |
ロボット技術 (ロボティクス) |
ロボットで作業を行う技術で、製品の塗装や溶接など、高い精度が求められる作業を正確に遂行できる。 |
関連記事:製造業でAI導入が必要な理由とは?メリットや事例を紹介!
まとめ
製造業におけるIoT導入は、生産性の向上や品質管理の強化、設備の予防保全など、さまざまなメリットを生み出します。一方で、導入時には、適切な投資規模の見極めや専門人材の確保、育成、セキュリティ体制の整備などを考慮し、自社の課題や環境に適した技術を選定しましょう。自社の課題を明確にし、段階的に導入をしていくことで、成果につなげることができるでしょう。
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