抱えていた課題
CADDi による解決
勘・コツ頼みの属人化の限界
YKKの競争力の源泉は、材料の溶解から機械の製造までを自社で行う徹底した「一貫生産」への強いこだわりにある。しかし、機械製造部長の松井氏は、その自前主義が「変化の足かせ」になっていたと指摘する。
松井氏
「安易に新しい図面を増やし続けた結果、品番数が膨れ上がりました。他方、かつては大量生産で通用していましたが、中国などから高性能で安価な設備が登場してくる中で少量多品種への対応が求められる今、これまでのこだわりを脱却しなければ、事業の競争力は維持できません」
この「品番の増殖」と「属人化」の波は、製造現場にも深刻な影を落としていた。製造統括グループ長の小川氏は、現場が抱えていた葛藤を明かす。
小川氏
「製造の基本は『図面通りにモノを作る』ことですが、現場には多くの暗黙知があり、実際には熟練者の勘・コツに頼って形にしているのが実状でした。その結果、特定の図面は特定の人や機械でしか作れないといった複雑化が進み、技術情報を外に出さない閉鎖的な文化も相まって、世の中のスピードに追いつけなくなっていたのです」
また、業務統括室長の西田氏も「調達業務が極めて属人化しており、担当者を変えるとトラブルが起きる状態でした」と振り返るほか、設計段階でも、生産技術室長の宮崎氏が「似た形状があっても新しく図面を書いてしまい、同じような見積依頼を繰り返していました」と語る通り、部門を越えて「過去の資産」が活用されない負の連鎖が起きていた。
(左から)YKK株式会社 松井 氏 西田 氏 小川 氏 宮崎 氏
外部の衝撃がもたらした組織改革
変革のきっかけは、コロナ禍という予期せぬ事態だった。外出が制限される中、業務を精査した松井氏は、図面を郵送でしかやり取りできないといった、あまりにもアナログな実態に直面。
さらに、コロナ禍明けに訪れた外部の協力会社での体験が、松井氏の背中を押した。
松井氏
「あるサプライヤーに、15の工程を記載した弊社の図面を渡していたのですが、実際は1工程でこなしていたんです。『本来、1工程でできるものに15工程もかけていたのか』と組織の空気感を変える必要性を痛感しました」
時を同じくして、組織改編によって管理が厳格化されたことも重なり、西田氏は「今までのやり方では改善できないというプレッシャーの中、個人の経験をいかに可視化し、標準化するか。調達の属人化を解消する新しい仕組みが必要でした」と振り返る。
(左から)常務執行役員 機械製造部長 松井氏 同部 業務統括 室長 西田氏
ベテランもうなる圧倒的なスピード
数あるプロダクトの中で、同部が選んだのは製造業AIデータプラットフォームCADDi(以下、CADDi)だった。決め手となったのは、スタートアップらしいスピード感と技術的必然性、加えてキャディの社員が持つモノづくりへの情熱だったという。
しかし、導入にあたって現場の抵抗がなかったわけではない。生産技術室の島氏は「以前使っていた他社システムは検索に30秒以上かかり、現場には『どうせ同じだろう』という疑いの目もあった」と明かす。その不信感を拭い去ったのが、CADDiの圧倒的な動作性の良さと業務時間短縮の体感だった。
島氏
「CADDiはとにかく早い。エンジニアが喜ぶレベルです。ベテラン社員からも『使いやすくていい』という声が上がっていますし、中堅層も、実際に使ってみることで他部署の安価な調達事例に気づくなど、新しい発見が生まれています」
また、製造改革実行チームの高松氏は、自ら加工現場に入り込み、信頼関係を築きながら導入を推進した。
高松氏
「製造リードタイム短縮という目標に向け、情報のアクセス性は不可欠でした。設計情報を起点に不具合事例(過去トラ)を数日で紐付けられたのは驚きでした。CADDiは情報抽出のスピードアップや工程集約の判断に大きく貢献しており、今では品質担当者も頻繁に活用しています」
こうした成果は「CADDiを軸に据えることで、部品の標準化を加速させたい」(宮崎氏)という経営視点の展望とも合致し、より一段上のレベルでのCADDi活用の機運が一気に高まった。
(左から)機械製造部 生産技術室 島 氏 製造統括グループ 製造改革実行チーム 高松氏
暗黙知から形式知へ。CADDiが世代をつなぐ架け橋に
生産技術室が直面していた「導入当初は60代と20代に二極化し、中堅層がいない」という年齢構成の歪みに対しても、CADDiは解決策となった。島氏は、ベテランの退職や異動で失われつつあったノウハウを、デジタル資産として蓄積することに価値を見出している。
島氏
「不具合の原因分析や協力会社への指導実績をすべてCADDiに取り込みました。新入社員には『まずはCADDiで確認し、それでもわからないことはベテラン社員に聞いてください』と指導しており、自己完結できる範囲が広がっています。これまで数万件の図面を目視で確認するのは不可能でしたが、今では1〜2日でのデータ抽出が可能です」
宮崎氏も「部品の加工合理化のスピードが格段に上がった」と評価しつつ、さらに先の展望を語る。
宮崎氏
「現在は機械製造部内での取り組みですが、真の効率化には設計部門を巻き込み、上流から変えていく必要があります」
小川氏もこのような変化を「現場の暗黙知を、AIによって形式知・数値化することへの大きな一歩」と前向きに捉えるほか、また島氏はキャディのカスタマーサクセス(CS)の姿勢も高く評価する。「CSの対応が非常に早く、要望を出したその日のうちに情報抽出等に関する提案をくれる。この熱量は現場の刺激になっています」
(左から)機械製造部 製造統括グループ長 小川氏 同部 生産技術室長 宮崎氏
CADDiが導く「最強のコスト競争力」
プロジェクトは今、製造プロセスの抜本的な改革へと向かっている。松井氏は未来を見据え、力強くこう語る。
松井氏
「手戻り作業に追われるのではなく、よりクリエイティブな業務に時間を充てられるような組織にしたい。世界中の工場で、どこでも同じ品質のファスナーを届けられる体制を、AIによってコントロールする。それが我々の目指す姿です。日本の製造業が勝つには、デジタル化とAI活用は不可欠です。この挑戦を他部署、そして製造業全体へと広げていきたい」
西田氏も同様に、「販売計画から製造、調達までが自動で連携し、最小限の人数で回せる『最強のコスト競争力』を持つモノづくりプラットフォームの構築を実現したい」と意気込む。
伝統ある「一貫生産」の魂と、最先端のAIテクノロジー。YKKの挑戦は、日本の製造業が「自前主義」から脱却し、DXによって新たな競争力を手に入れるための確かな道標となっている。
(左から)YKK株式会社 松井 氏 西田 氏 小川 氏 宮崎 氏
より詳細な事例、貴社の課題に近い事例にご興味はありますか?
貴社の課題に合わせた事例のご紹介が可能です