抱えていた課題
CADDi による解決
転換期を迎える市場でシェアをどう維持するか
ベトナムは今、二輪車の市場が成熟期を迎えつつある。人口1億人を突破し、急速に豊かになるこの国では、かつて右肩上がりだった二輪市場が飽和に近づき、EVシフトという次の波も押し寄せ始めている。
二輪サスペンションを手がけるAstemo Hanoiにとって、この変化は経営の根幹に関わる問いを突きつけた。限られたパイの中で、いかにシェアを維持し競合に打ち勝ち続けるか ─── その答えを出すためには、競合の動向調査や、顧客要求対応の品質向上といった付加価値の高い戦略的アクションに、現場の時間とエネルギーを集中させなければならない。
しかし現場は、膨大な手作業と重複業務に埋もれていた。競争に勝つためのアクションが急務だとわかっていても、そのための時間が捻出できない。構造的な忙殺が、変革の足を止め続けていたのだ。
4社統合で進んだ成長と「重複と手作業の連鎖」
電動パワートレイン、先進シャシーなど四輪・二輪にわたる幅広い製品を手がけるAstemo株式会社。4社の合併によって設立を迎えた2021年1月、各社の強みを生かした販路拡大と研究開発効率の向上を展望に掲げ、期待に満ちた門出を迎えた。
しかし、統合の道のりには厳しい現実が待ち構えている。まず立ちはだかるのは旧組織ごとの分断の問題だ。それはAstemoにおいても例外ではなかった。旧4社それぞれが、設計開発ツールからERPに至るまで独自のシステムを持ち続けており、情報の分断が余儀なくされた。さらに、問題はシステムだけではない。例えばお客様からの引き合いから量産開始までのプロセスさえも、旧4社ごとにまったく異なっていた。
日熊氏
「旧来のやり方でドキュメントを作りつつ、新Astemoとしてのルールにも対応しなければならない。単純に作業量が2倍かかっていました」
統合プロジェクトでは、時間を優先するあまり、旧各社のやり方をすべて盛り込んだ大掛かりなシステム・業務プロセスを構築する結果となった。日熊氏は「最小公倍数の発想でルールを作ってしまった」と、要件のシンプル化が十分に実現できなかった当時を振り返った。
その頃、後に日熊氏が着任するAstemo Hanoiでは、物理的な距離も相まって設計やコストなどの情報にアクセスしづらい状況が慢性化しており、そうした情報を見つけ出すために費やす時間が、現場メンバーの本来の仕事を圧迫し続けていた。
現場の反応が変わって訪れた、組織のギアチェンジ
変化のきっかけは、偶然の出会いだった。当時の事業部長が展示会でキャディ株式会社(以下、キャディ)と接点を持ち、「面白い会社だから調べてみてくれ」と日熊氏に指示した。日熊氏はベトナム赴任直前にCADDiについて調べ、「自社の困りごとに非常にミートする」と直感した。
しかし、現場への浸透は容易ではない。もちろん賛成ばかりではない上に、自分ごととして捉えているメンバーも初めはそう多くなかった。
そんな中、CADDiのデモを通じた「体験」が転機をもたらした。後ろ向きだったメンバーにCADDi上の機能を実際に見てもらい、「おお、こんなこともできるんだ」と目線が変わったという。
日熊氏
「実体験によって現場担当者が『本当に時間の節約ができるんだ』と腹落ちできたことで、今まで否定的だったマネージャー陣の見方も、ポジティブに変化した感覚がありました」
実際に現場担当者が触れて感じた「これなら使える」が、組織の空気を変えたのだ。
そして、同社のキャディ導入の決定打は、ツールの実用性が認められたことだけが理由ではなかった。その理由とは、製造業への理解の深さ、そして信頼感だったと日熊氏は続けた。
日熊氏
「まず当社の工場に来て現場を知ろうとする姿や、シンプルで透明性のある提案には、他社さんとは別格の信頼感をおぼえましたね。何より、『日本の製造業を変えよう』という視座で、情熱を持って課題解決を目指す皆さんと、直感的に、お付き合いしたいと感じたんです」
付加価値を高める活動へのシフト、IT文化への自然転換
導入は、生産技術部門・プロジェクトマネジメントチーム・品質保証部門の3部門から開始。見積や帳票管理に関わる業務で最も課題感が強く、浸透は早かった。
すると、現場では着実に変化が起き始めた。これまで情報の収集・確認に費やしていた時間が大きく削減されたことで、新たな領域へのリソース配分が検討できるようになったのだ。
一例として、品質検査が挙げられる。トラブルが発生するたびに検査項目が増えていく一方、後から一つひとつの検査の必要性を精査する時間は確保できておらず、工数が不可逆的に肥大化していた。しかし今では、「この検査は本当に今も必要か」を検証するための時間を確保することも可能になった。最終的には、検査工数そのものの削減も期待される。そのほかにも、AIを活用することで、承認プロセスの工数軽減などにも期待が高まっている。
そしてもう一つの大きな成果として、かつてはお客様からのリクエストへの対応に追われるばかりだった現場が、今では競合メーカーの動向を調べ、先手を打つ価値創出を自発的に検討できるようになってきたことも語られた。これは、冒頭の「業界内シェア維持」を達成する上で、大変重要な変化だ。
さらに、予想していなかった変化も起きた。
日熊氏
「最近はメンバーが『自分たちでも何かできるんじゃないか』と考え始め、デジタルを積極活用するようになってきました。これは間違いなくCADDiに触れてみたことがきっかけだったと思います」
かつてITやデジタルに懐疑的だったメンバーたちも、今では自らツールの質問やリクエストをするまでに変化した。組織の中にデジタル技術を活用する文化が芽生えてきている。
「小さく産んで、大きく育てる」が第一歩
日熊氏が次に見据えるのは、グループ企業間のシナジー創出だ。まずは成果を実感している領域として、CADDiを活用した見積業務の全体最適化、生産立ち上げリードタイムの短縮に取り組み「まずはやってみる」姿勢を示す。こうした変化を後押しに、より迅速かつ柔軟に顧客ニーズに対応できる体制が整う。
その先に描くのは、グローバルサプライチェーンの可視化・最適化や、在庫管理システムの共通化など壮大なものだ。各拠点の優先順位を尊重しつつ、キャッシュフローを圧迫するグループ間の無駄をなくすなど、2倍、3倍のシナジーを創出していく。
最後に、日熊氏は製造業で変革を推進する次のリーダーへこう語りかけた。
日熊氏
「失敗した数だけ、その対策を持っているから価値が生まれる。経営者はぜひ新しいことに挑戦できるチャンスを現場に与えてほしいですし、現場の推進者は、ぜひ覚悟とダイナミックさを持って、『まずは小さく始めてみること』にどんどん挑戦してほしいと思います」
「変革を惜しむことで何年も苦労を被り続けるのは、何千人という現場のメンバーたちです。逆に、もし失敗したとしても、怒られるのは責任者の私一人です。だったらやってみようと思いました」
完璧な準備をしてから動くのではなく、最小単位で始め、体験で組織を変える。そして、失敗を恐れずに挑戦できるカルチャーを、経営と現場の双方向で作っていく。それがAstemo HanoiのDX推進が証明した、変革の肝要だった。
一拠点の成功が、グループ全体の生産性向上の出発点。市場競争力強化に向けたAstemoの跳躍と挑戦は、これからも続いていく。
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