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間違ったモジュール化設計による落とし穴と現場のリアル

製品設計を伴う多くの製造業での設計業務で実施されているのが流用設計である。
実はこの流用設計がくせ者で、多くの設計者を困らせているのが実態である。

皆さんも経験があるのではないでしょうか。

  • 流用元からを変更したことにより、不具合を発生させてしまった。
  • 流用した製品の大元の流用元が分からずに、様々な顧客仕様を含んだ製品になっているため、変更しなければならない箇所が非常に多い。
  • どの流用元を選択すればいいのか分からず、図面全てを確認しないと、流用元を選択できない。

以上のように流用設計には多くの問題があり、そのまま設計してしまうと設計工数が余計にかかるようになります。

流用設計における問題の整理

流用設計時の問題点は流用モデルと派生モデルにあると考えています。まずは流用モデルと派生モデルの定義を考えてみましょう。

  • 流用モデル:新製品を流用し、改良の設計を加えたモデル(製品)のことを言う。
  • 派生モデル:流用モデル(製品)に顧客要求仕様などを反映するため、さらに改良の設計を加えたモデルのことを言う。

この定義を読んでわかるように流用設計で問題を起こしている原因は「この派生モデル」です。

流用モデル、派生モデルへの改良の流れ

5年前の製品が流用モデルで、現在の製品が派生モデルです。この派生モデルを使用することにより、様々な問題が発生します。
さらに現在の派生モデルはこのような簡単な状況ではなく、さらに混乱を招くような状態になってしまっています。

理由として、流用モデルから生まれた派生モデルが数十種類存在し、どのモデルがどのような仕様になっているのか一目で確認することが困難な状況になっています。
設計者は多くの派生モデルを前にして、図面をめくりながら詳細な仕様を確認しなければならないことになるでしょう。

派生モデルの問題点

流用モデルに改良を重ねた図面を作成し、新たなモデルを設計します。
結果、どの部分が改良なのか、どの部分が特定の顧客だけの要求によって変更された部分なのかが視えなくなります。
派生モデルの仕様の詳細内容が設計担当者でないと分からず、その派生モデルを修理する時などに困ることとなるでしょう。

このようにして、何も仕組みのない状態で流用設計を実施していくと、大きな品質問題が発生する事になります。
本来であれば流用設計が可能なようバリエーションの管理や特定の顧客要求仕様の整理などを行われた上で、どの設計者でも簡単に流用元の選定が可能にならなければなりません。

間違えることによって起こる品質問題とは

設計起因による不具合を調査していくと、多くの企業で興味深いデータを集計することができました。

実は、設計起因の不具合の約50%が過去に発生させている内容なのです。全く同じ不具合では無いにしても、同じような現象の不具合が多く起こってしまっています。

それの1つの原因がまさにこの「派生モデル」にあると考えています。

 

過去の製品(大元の製品)で不具合を発生させてしまった場合、大元の製品の不具合を対策することはもちろんのこと、
同じ部品や機構を使用している製品も同様の対策をしなければなりません。

大元の製品から1回改良を重ねた「流用モデル」については、調査可能な事がすることが出来ることが多いため、同じ対応策を織り込むことが可能です。
だが、その先の「派生モデル」となると、管理が出来ていない場合が多くいため、全ての派生モデルに同じ対応策を織り込むことが難しくなってくるでしょう。

 

その結果、派生モデルを流用する場合に注意深く気を付けて確認し、不具合対策が未実行であれば、織り込もうという考え方に至ってしまいます。
その考え方が周知徹底出来ていればいいですが、末端の設計者まで伝わらず、結果、対策が織り込まれない状態で製品設計を完了してしまい、同じ不具合が繰り返されます。

このようにして、不具合が繰り返されていきます。不具合が繰り返されることによって、更なる問題が降りかかることになってしまうでしょう。

例として、不具合対策に大きな時間を割かれを行わなければならないことにより、次の製品開発のスタートが遅れるのです。
遅れることにより、流用元の選定の議論や検証が不十分になり、根拠がないモデルを流用されてしまいます。

そのため、仕様設計変更部分が多く設計に時間を要すがかかるが、製品開発のスタートが遅れているため、出図期限に間に合わせるために、必死の想いでなんとか図面を仕上げる。
この結果はどうなるか読者の皆さんもお判りでしょう。製造段階で組立が出来ない、正しく動作しないなど不具合が発生し、その対応に追われる。

また、次の製品開発スタートが遅れる・・・

この繰り返しを「設計の負のスパイラル」と私は呼んでいます。

図面流用しているならモジュラー設計は可能か

経営コンサルタントという職業のため、様々な企業でのモジュラー設計に取り組んできました。
どの企業(特に受注生産の会社)もお会いして、最初に言われることがあります。
「当社は受注生産の製品のため、モジュラー設計のようにあらかじめ図面を準備してなんてできません!
お客様毎に要望が異なるので、流用設計の概念はありません。」と・・・。

読者の皆さんはどう思いますか?流用設計していないなんて、効率が悪くてしかたありません。
ただ単にモジュラー設計を導入したくない言い訳ですね。

そうは言ってもなかなか納得してくれないので、私はその会社の設計者の仕事の仕方を数日かけて観察します。
どのようなことが起きているかというと・・・

 

このように保管されている書類(図面一式)を複数出してきて、どの図面を参考にしようか悩んでいます。
冒頭お話したのは流用設計ではなく、参考図面を見ながら設計しているという意味だったのです。

「参考にする」という言葉と「流用する」という言葉の違いはありますが、ほぼ同じことです。
参考にするための製番を探し、製番の仕様書では細部が分からないため図面を確認していきます。
そして、流用可能な図面をそのファイルから抜き取り、コピーしていきます。

そのコピーした図面を見て、CADデータがないか調査、あればCADデータを使用し、設計し始めます。
なければ、図面を見ながら、CADにて図面を作成していきます。

このように実際に流用しています。という事は、その会社のコア技術部分であったり、強みとなる技術や機構部分は毎回同じ図面を使用しているのです。
この事実が非常に重要なのです。

同じ図面を使用しているということは、その図面を機能などで分解したときに1つの塊として、定義した上で、今までと同じように、その塊を流用すればいいのです。
最も簡単なモジュール化となります。

間違ったモジュール化運用

モジュールが使えない?!

実はモジュール化の一番の落とし穴は運用の部分にあると皆さんご存知でしたか?
3DCAD化によって、様々なモジュールを設定し、使えるように準備しておいた!という企業は多くあるでしょう。

私のクライアント先でも3DCAD化によって、モジュラー設計に取り組んでいる企業は多くあります。
その実態を探ってみると、モジュールをせっかく準備しているにも関わらず、前の流用設計と同じやり方、過去製番を流用して設計しているではありませんか。

なぜ昔のやり方に戻ってしまっているのか、設計担当者にヒアリングすると、

「モジュールを使用して、3DCADでモデルを作成しようとすると、さまざまな部分を変更しなければならず、時間がかかるんです。今までの2DCADの時の方が早いですよ。3DCADのモデルを作成しないといけないので」

このような答えが返ってきました。このような状態ではなぜ3DCADを導入したのかまったくわかりませんし、改悪になってしまっています。
まさに3DCAD導入やモジュラー設計の落とし穴ですね。

では何をしなければならなかったのでしょうか。また、どのような点に問題があるのでしょうか。一度整理して考えてみましょう。

モジュール自体の問題点

モジュール自体に問題がある場合、どのような問題があるでしょうか。
例えば、受注生産の企業の多くが「標準機」というものを定めています。
設計する時の標準となる機種のことです。
その機種を必ず流用し、設計をしていく。派生の機種を作らないための仕組みです。
ということは、モジュールの単位で言うともっとも大きな単位が標準機という事になります。
しかし、この標準機というものがくせ者で、標準機を使用するというルールを定めているにもかかわらず、設計者は「過去の実績ある製品」を使用し、設計するのです。

その理由は、今回の受注した内容が過去に設計した製品の内容と似ているからであり、標準機を使用すると設計変更や追加に大幅に時間がかかってしまう。
このような現状から標準機を使用しなくなります。

この問題は、モジュールの設定自体に無理があったのです。何のバリエーションもなく、標準機のみを設定したところで、標準機を使用できるハズがありません。
また、「標準機を使用しなさい」という号令がルールとなってしまっていると、設計者はそのルールを守れるハズもありません。

モジュールというのは、どのような受注が来ても、「組み合わせ設計※」が出来るような状態にすることが求められているのです。
(組み合わせ設計の考え方は後ほど説明します)

モジュールを選べない?!

モジュールを設定し、そのモジュールの中には様々なバリエーションを準備したとします。
かなり使いやすい状態にありますが、運用方法を決めていないと思ってもみなかった落とし穴が待っていることがあります。
それはモジュールの中にあるバリエーション(選択する部分)や寸法を変更する部分(形状が変動的に変更される部分)の選択、設定基準を作っていないことにより、設計者が本来選択できない仕様にもかかわらず、選択してしまうという事です。

具体的に説明しましょう。

例えば、シャーペンで考えてみます。シャーペンというのは、様々な機能やバリエーションが存在します。
そのバリエーションの中には、シャーペンの芯を送り出すために、親指で押す部分に消しゴムが設定されているものが存在します。
消しゴムを設定しようとすると、消しゴムの受け皿となる形状の部品が必要となりますが、シャーペンのメーカーの設計者に自分自身がなったと仮定すると、
製品企画書には、消しゴム付きであることの要件があるため、モジュールから消しゴムを選択しましたが、そこには依存関係にある部品が存在し、
先ほど説明した受け皿のような形状の部品も設定する必要があります。

しかし、その設定を忘れ、消しゴムを取り付けることが出来ない部品を設定してしまいました。

結果、3DCADで組み合わせる時に間違いに気付き、修正したものの、試作品を作成するための各部品の先行手配はすでに実施しており、再度、先行手配が必要となってしまいます。

このように運用の基準として、選択の基準(特に先ほど説明した依存関係にある部品の明確化)を設定しておかないと、
設計者が間違えて選択してしまった場合、手戻りが発生する可能性があります。

モジュールを作成し、設計効率を向上させ、手戻りのない仕組みを構築したにもかかわらず、多くのムダが発生していまい、
せっかく時間をかけて構築した仕組みの意味がなくなってしまいます。

モジュールだけでは顧客要望に応えられない!?

標準化やモジュール化をすると、特に受注生産の企業の営業マンが、「決められた仕様の製品を売ってこい!となると、
今までの会社の強みが消えてしまい、受注することが出来なくなりますよ?だって、今までの会社の強みはお客さんの全ての要望に応えることですから。
それでもいいのであれば、決められた仕様を売ってきますよ!」と怒りの声を間違いなく言ってきます。

この営業マンの言っている事は正しいのです。多くの営業マンはそう思うでしょう。
しかし、お客様が言っていることが全て正しいとは限らないし、同じ機能を持っていたとしてもお客様の要望に応えるために少し構造を変更する。

その結果、新たな図面が生まれ、新たな加工方法が必要となる。その「新たな」という部分で不具合やクレームが発生する可能性が出てきます。
同じ機能を持った部品や形状なのであれば、お客様を説明し、モジュールであらかじめ設定されている部品を使ってもよいのではないだろうか。

ただし、モジュールの構成で注意することは、決められた仕様の中には過去に受注したお客様の要望を実現した仕様が全て入っていなければならない
(全ては今後受注する可能性のある仕様ということ。今後受注の可能性のない仕様まで設定する必要はない)ということです。

その中からお客様に選んでいただければいいだけなのです。
また、違う視点で考えると確かにお客様の要望をそのまま実現してきたが、本当にその仕様は必要なのか?お客様が言っているからと言っても、
モジュールで設定している仕様で代替は出来ないのか?と考えます。

同じ機能を持っているのであれば、お客様が言っている仕様にこだわる必要はないかもしれません。
受注生産の既成概念で、お客様が言っていることを全て実現しなければならないと考えてしまいがちです。
その要望を全て叶えてきたからこそ、派生の製品がたくさん生まれ、管理することが出来ない状態になっているのです。

その製品を設計、製造するにあたっては、受注する企業の方が「プロ」です。その「プロ」がお客様の言いなりになってはいけない。
お客様が実現したい事が何で、そのためにはどのような構造が最適なのかを受注する企業側で答えを出さなければなりません。

だからこそ、過去の経験やノウハウの全ての詰め込んだモジュールを使用することにより、お客様の目的を叶えることが可能となります。
また、その目的を今までよりも短いリードタイム、低コストで実現することが出来れば、お客様は自分の要望した形状にこだわらなくなるでしょう。

お客様が言っている事の中には、今までの慣習上、こうしなければならないと決めつけている内容もあるのです。
それを事例のような「安全」という切り口で、その会社の仕様の方向にもっていくのです。

そのように仕向けることにより、決められた仕様のまま、販売することが可能となり、品質、コスト、納期のQCD全ての内容においてお客様にもメリットが出てくるのです。

 


株式会社 A&Mコンサルト 代表取締役社長 中山聡史

設計業務を中心にトヨタ流の改善や問題解決の考え方や方法を指導するコンサルタント。
現場視点、かつ技術者の目線に立った具体的で分かりやすい指導に定評があり、コンサルティングの実績も豊富。
トヨタ自動車では、クルマの開発設計の“心臓部”といわれるエンジンを担当。
その設計から開発、品質管理、環境対応など幅広い業務に従事した。

トヨタブランドでは「カローラ」から「クラウン」などを、レクサスブランドでは「IS」「RX」などヒット車種のエンジンシステムを設計し、海外でのエンジン走行テストなどにも同行経験がある。
その後、A&Mコンサルトのコンサルタントに転身し、製造業を中心に設計改善やトヨタ流問題解決の考え方のコンサルティング業務を展開。
「ものづくりのQCDの80%は設計で決まる!」の理念の下、自動車メーカーでの設計や開発、製造、品質保証などの経験を生かし、多くのものづくり企業にモジュラー設計導入や設計業務改革、品質・製造改善、生産管理システムの構築などを支援している。

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