製造業向けの図面管理システムの選び方!加えて、既存の管理システムではDXが難しいポイントも併せてご紹介!
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製造業やモノづくりに携わる会社にとって、図面管理は生産性の向上はもちろん、業務効率化の実現に欠かせません。最近では、AIによって登録図面全体から類似図面を検索したり、元図面と類似図面の差分を簡単に把握できるといった特徴を有するシステムまで登場しており、その利便性を実感するためにも図面管理システムの選び方が非常に重要です。
この記事では、図面管理システムとはいったいどのようなものなのか、製造業における図面管理の課題や必須の機能、図面管理システムを選定する際のポイントついてわかりやすく解説していきます。
図面管理システムとは
図面管理システムとは、CADやPDF、Office(Word/Excel/PowerPoint)などで作成された完成図書、2D図面、設計資料、技術資料などの図面情報を一元管理するためのシステムのことです。
図面管理システムを社内採用するメリット
図面管理システムを社内採用することで、次のメリットがあります。
- 仕事で必要な図面をすぐに見つけることができる
- 承認フローや図面の更新通知などの工程が自動化されるため、手作業でのミスが減り、作業負担が軽減される
- 部署やプロジェクトごとに個別管理されている図面データを一元管理できるため、情報の整合性を高められる
- 社内資料や図面をすべてデータ化することで、紙ベースの図面管理に比べて、保存スペースや印刷コストを削減できる
- 図面の変更履歴やバージョンを一元管理できるため、最新の図面を使用できるだけでなく、過去のバージョンも簡単に確認できる
- ISO規格に準拠した図面の保存や必要なアクセスログの記録など、法規制や業界標準に対応した管理が容易になる
- アクセス権限を厳格に管理できるため、機密情報の漏洩を防止し、企業の知的財産を保護できる
- 複数のユーザーが同時に図面を閲覧、コメント、編集できるため、チーム内でのコミュニケーションがスムーズになり、作業の遅延を防げる
- データがデジタルで管理されるため、定期的なバックアップが容易に行え、万が一のデータ消失時にも迅速に復元できる
このように図面管理システムは、会社の知的財産である設計図面を保護し、プロジェクトの成功を支援してくれるため、社内採用する価値は非常に大きいです。
製造業における図面管理の課題
製造業では、図面管理において次のような課題があります。
- 図面管理の属人化
- 紙図面の紛失や重複作成
- 出図ミスによるトラブル
- 図面検索が理想通りにできない
それぞれ、どのような課題があるのかについてご説明します。
図面管理の属人化
図面管理の属人化は、製造業においてよくある課題のひとつです。たとえば、各設計者が自分のパソコンやローカルサーバーに図面を保存し、他の設計者や製造部門と図面を共有しないことが常態化していたとします。
これではプロジェクト全体の進捗が見えづらく、設計者が急に退職した場合、その人が管理していた図面がどこにあるのか把握できていないといった問題が発生してしまいます。そのような環境下では、古い図面に基づいて製品が製造されることが起きてしまい、製造ミスや納期の遅延、追加コストの発生につながります。
他にも、次のようにファイルネーム命名規則が統一されていないと図面の検索が困難になり、どれが最新の図面なのか判断するのに多くの時間を要してしまいます。
- ある設計者は「project_A.pdf」と名付ける
- 別の設計者は「project_20240711.pdf」と名付ける
そのような環境下では、旧バージョンの図面が誤って使用されることがあり、製造現場での手戻りや無駄なコストが増加します。
また、他のとある会社では設計者が図面の寸法情報を変更したにもかかわらず、その事実をチームに共有しないといったことが起きています。その結果、チームメンバーが誤った図面を基に製造を進めたため、完成した製品に不具合が発生しました。このミスにより、製品は再製造が必要となり、納期が大幅に遅延し、顧客からの信頼を大きく失う原因となっています。
これらの問題点は、図面管理が個々の設計者に依存し、適切な共有や標準化がなされていないことに起因しています。図面管理システムを採用することで、これらの課題を解決し、設計情報の一元管理や共有がスムーズに行われるようになり、製造ミスの削減や業務効率の向上が期待できます。
紙図面の紛失や重複作成
紙図面を使用する製造現場では、図面の紛失に注意する必要があります。通常、紙の図面を使用している会社では、図面は設計者のデスクや製造現場の各所に保管され、プロジェクトごとにファイルボックスにまとめられています。しかし、現場環境が忙しくなると図面の管理が徹底されず、重要な図面が見つからないという事態が発生しやすくなります。
紛失した図面に特定の製品の製造に必要な技術情報が記載されている場合、その情報が見つからない限りは製造工程がストップしてしまいます。その結果、プロジェクトは遅延し、顧客への納期に間に合わないリスクが生じます。また、再度図面を作成するには多くの時間とコストが必要となるため、業務効率の大幅な低下につながります。
他にも、とある会社では製造現場で紙の図面が必要なときに、元本データに影響が出ないようにするため、図面データのコピーを新規作成する習慣がありました。しかし、各部門や担当者が個別に図面をコピーするため、同じ図面が何枚も作成され、会社内のあちこちにコピーされた図面データが存在していました。
これでは、古いバージョンの図面が誤って使われるリスクが高まり、製品のミスや手戻り作業の発生につながります。紙図面の紛失や重複作成は、物理的な管理の難しさや手作業による管理ミスに起因します。
図面管理システムを採用することで、図面のデジタル化が進み、紛失のリスクが軽減され、常に最新の図面を共有できるようになります。また、重複作成や誤使用を防ぎ、業務の効率化と品質の向上が期待できます。
出図ミスによるトラブル
図面の出図ミスは、製造業において重大なトラブルを引き起こす原因となります。たとえば、間違ったバージョンの図面が製造現場に送られた場合、不適切な部品が製造される可能性があり、製品の品質に深刻な影響を与えることがあります。
また、これにより納期遅延やコストの増加が発生し、顧客との信頼関係にも悪影響を及ぼします。
図面検索が理想通りにできない
製造業では、膨大な数の図面を扱うため、必要な図面を迅速に検索できることが重要です。しかし、紙図面や一元管理されていないデジタルデータでは、図面検索が理想通りに行えないことが多々あります。
たとえば、図面番号やプロジェクト名での検索が困難だったり、その他の補足情報が不足している場合、正しい図面を見つけるまでに多くの時間を要し、業務効率の低下につながります。
これらの課題に対処するためには、図面管理のデジタル化や一元管理、適切な権限管理などが必要となります。
図面管理システムでできること
次に、図面管理システムを利用することで次のことができるようになります。
- 図面の一元管理をペーパーレスで実現
- 版管理
- 検索
- CADとの連携
それぞれ、どのようなことができるのかについてご説明します。
図面の一元管理をペーパーレスで実現
図面管理システムでは、紙の図面をデジタル化し、すべての図面を一元管理できます。これにより、物理的な保管スペースが不要になり、紛失や破損のリスクを大幅に軽減できます。また、設計者や製造チームがどこからでも最新の図面にアクセスできるため、作業の効率化が進みます。
たとえば、製品開発に携わるチームが各地に分散している企業では、クラウド上で図面を共有し、リアルタイムでアクセス・編集が可能になることで、どこにいても数秒で必要な図面にアクセスできるようになります。また、過去のバージョンや作成者、作成日などの情報も簡単に確認できるため、紙図面よりも便利です。
版管理
図面管理システムは、図面のバージョン管理(版管理)を通じてトレーサビリティ(追跡可能性)を確保します。これにより、誰が、いつ、どの部分を変更したのかを簡単に追跡でき、設計の変更履歴を正確に把握することができます。
たとえば、製品設計が進行中に図面が何度も修正される場合、システムは各バージョンを自動で保存します。もし問題が発生した場合、どのバージョンでどのような変更が行われたかをすぐに確認できるため、原因究明や修正対応が迅速に行えます。
検索
図面管理システムでは、図面や関連データを素早く検索するための高度な検索機能が提供されています。検索を効果的に行うためには、図面にキーワードを付与したり、詳細な情報を入力しておくことが重要です。
たとえば、製品設計チームが過去の図面を検索する際、図面に適切なキーワード(たとえば「エンジン部品」「アルミ素材」など)やメタデータ(作成者、作成日、プロジェクト名など)が付与されていると、検索が非常にスムーズになります。
CADとの連携
図面管理システムは、CADソフトウェアとの連携をサポートしてくれます。これにより、CADデータの直接的なインポートやエクスポート、CADファイルのバージョン管理がスムーズに行えます。そして、CADデータに基づく自動解析や寸法チェックも可能です。
たとえば、設計者がCADで作成した図面をシステムにアップロードすると、システムが自動的にファイルを整理し、他のチームメンバーと共有できます。また、CADソフトウェアでの修正が即座にシステムに反映されるため、常に最新の情報が維持されます。
図面管理システムを選定する際のポイント
図面管理システムの選定ポイントは、次のとおりです。
- クラウド型かオンプレ型か
- 図面管理だけではなく、検索機能が充実しているか
- 現在の業務フローに組み込む作業や乗換コストは適切か
それぞれの選定ポイントについてご説明します。
クラウド型かオンプレ型か
図面管理システムを選定する際には、クラウド型とオンプレミス型(オンプレ型)のどちらかを選ぶ必要があります。通常、セキュリティやメンテナンスコストの観点から、クラウド型のシステムには多くのメリットがあります。
クラウド型システムは、専門のセキュリティチームによって24時間体制で保護されています。最新のセキュリティ技術でデータを守り、不正アクセスやサイバー攻撃に対する高度な防御策を常に更新しているため、社内でオンプレ型システムを運用するよりも、セキュリティリスクが低減されます。
他にも、クラウド型システムでは、サービス提供者が常に監視やデータのバックアップを行っているため、問題が発生してもすぐに対応できます。これにより、システムの停止期間が短くなり、何が起きても業務をスムーズに進められるようになります。クラウド型とオンプレ型の違いについては、次の比較表を参考にしてください。
項目 | クラウド型 | オンプレ型 |
採用コスト | ・初期コストが低い。
・利用した分だけ料金が発生。 |
・高額な初期投資が必要。
・サーバーや機器の購入が必要。 |
メンテナンス | ・メンテナンスはクラウドサービスプロバイダーが担当。 | ・社内でのメンテナンスが必要。
・ITスタッフや外部業者が必要。 |
セキュリティ | ・専門のセキュリティチームが24時間体制で保護。
・最新のセキュリティ対策を提供。 |
・セキュリティ対策は社内で管理。
・常に最新の対策が必要。 |
拡張性 | ・必要に応じて柔軟に拡張、縮小が可能。 | ・拡張する場合は、新たな機器やスペースが必要。 |
障害発生時のリスク | ・サービス提供者が常に監視しており、迅速に対応可能。
・サービスの停止期間を最小限に抑えられる。 |
・システム障害が発生した場合、復旧までに多くの時間を要することがある。 |
データ復旧 | ・データのバックアップにより、迅速に復旧可能。 | ・データ復旧は社内で行う必要があり、災害時にリスクが高い。 |
アクセス性 | ・インターネット接続があれば、どこからでもアクセス可能。 | ・社内ネットワーク内に限り、アクセス可能。
・リモートアクセスには設定が必要。 |
カスタマイズ性 | ・一部制約があるが、通常の業務に必要な機能は十分に提供。 | ・完全にカスタマイズ可能。
・ただし、多くの時間と費用を要すことが多い。 |
更新・アップデート | ・プロバイダーが自動で行い、最新の状態を保つ。 | ・手動で更新、アップデートが必要。
・システムの一時的な停止が必要なケースがある。 |
図面管理だけではなく、検索機能が充実しているか
図面の検索機能が充実していることも選定時の重要な要素です。効果的な図面管理には、必要な図面を迅速に見つけるための検索機能が不可欠です。たとえば、図面の番号、名称、日付、設計者、関連プロジェクトなど、様々なメタデータに基づく検索が可能なシステムを選ぶと、業務効率が向上します。
そして、AIによる類似図面検索や3Dモデルの一部を指定して検索する機能があると、設計の再利用が容易になり、新しい設計を迅速に進めることができます。これにより、新しいプロジェクトの立ち上げ時間を大幅に短縮できます。
現在の業務フローに組み込む作業や乗換コストは適切か
図面管理システムを選定する際には、単純なツールの費用だけでなく、現在の業務フローにシステムを組み込む作業や乗換コストも重要なポイントです。
システムがどれだけ優れていても、現在の業務工程に組み込めないと、逆に効率が落ちてしまう可能性があります。たとえば、既存のフローで使用しているCADツールやデータベースとの連携がスムーズに行えるか、また図面の承認工程や検索機能が現行の手順とどのように整合するかを検討する必要があります。
他にも、システムの採用に伴う乗換コストも無視できません。たとえば、新システムに対して社員が習熟するまでの時間や初期に発生するトラブルへの対応にコストが発生します。
特に、長期間にわたって使用されている既存システムからのデータ移行は複雑で、しっかりと計画しないとデータ損失や作業の遅延が生じるリスクがあります。これらの要素を踏まえた上で、導入による業務全体への影響を総合的に評価することが求められます。
導入後のサポートの手厚さ
システムを効果的に運用するためには、導入後のサポートが充実していることが不可欠です。新しいシステムを導入すると、必ずと言っていいほど初期の段階で基本的な設定や調整方法に関する問題が発生します。
こうした問題に迅速に対応できるサポート体制が整っていることで、システムの立ち上げがスムーズに進みます。たとえば、システムの操作がわからない場合や予期せぬエラーが発生した場合に、迅速なサポートが受けられれば、業務が滞ることがありません。また、定期的なトレーニングやオンライン説明会を提供してくれるサポート体制があれば、新しい機能への適応も容易になり、システムを最大限に有効利用できます。
事業部横断しての活用から価値が生まれる
図面管理システムの真価は、部署横断で活用し皆様が蓄積されてきた情報を活用できる資産と
することです。事業部や課などの単位でいわゆるスモールスタートでもよいと思いますが、その先を見据えることが重要です。
事業部横断での活用は抵抗勢力との戦いや、現場を率いるリーダーシップの発揮などパワーのかかる業務です。それを乗り越えてこそ、こういった取り組みは真価を発揮できると思います。
皆様の図面管理システムや図面管理の在り方を今一度振り返っていただければ幸いです。